第四十三話 ボディバッグ
いつ頃のことだったか失念したが、家族と出かけた時に妙なものを見た。
その日、我が家の面々は、近県までドライブを兼ねた買い物に出ていた。
休日の昼間で天気も良かったためか、交通量が多く、軽い渋滞にはまった。が、急ぐ旅でもない。そのうち動き出すだろうと思い、私は運転席の後ろで、のんびりと窓の外を見ていた。
ややあって、対向車線の最後尾に一台のバイクがついた。遠目だが、おそらく若い男性で、街中にいくらでもいそうな“バイク乗り”に見えた。
しかし、彼の胸元のボディバッグが非常に個性的なデザインをしていて私の目を引いた。濃いピンク地に白い水玉模様をあしらった刺激的な柄だった。
ずいぶんと攻めたアイテムだなと興味を引かれていたら車が動き出し、徐々にバイクとの距離が縮まってきた。
相手の姿をはっきり視認した時、ギョッとした。
ボディバッグだとばかり思っていたものが、人間のカタチをしていたからだ。
すれ違う際、よく見ると、水玉柄のパーカーのような服を着た人物が、男性の胸に顔を埋めるようにして抱きついていた。
フードをすっぽりとかぶっていたが、肩のあたりからチラチラと長い黒髪がなびくので、女性──何の根拠もなく十代半ばの少女──だと思った。
恋人か、兄妹か。近しい間柄に見える。
一体何故、こんな乗り方をしているのだろう。
唖然とした私は思わず「うぉ、危な……」とつぶやいていた。
それを耳にした家族が何のことだと訊いてきたので、理由を話したところ、皆一様に首を傾げた。
私以外の家族は誰も彼らを見ていなかった。運転していた父も「バイクは通ったかも知れんが、少なくともそんな異様なヤツはいなかったぞ。俺もバイク乗りだから、いたら気づく」と言っていた。
自分としては、危険運転をしているカップルに呆れただけだったはずが、車内は一気に心霊談議で盛り上がった。
母はいつもの如く興味津々で、「その男の人、取り憑かれてるのかな。生霊だったりしてね」とこれまた根拠のない──そのくせ無駄に生々しい──コメントをして場を沸かせていた。
そういえば、すぐ横を通ったのに、私は“彼女”の下半身を見ていなかったことに気づいた。
ライダーはやや前傾姿勢でハンドルを握っていた。この状態で人が抱きついていたなら、体勢的に脚が男性の体の横に出ていないとおかしい。だが背中に回る腕と髪の毛しか覚えていない。
水玉模様の服があまりにインパクト抜群でそれ以外の箇所は記憶に残らなかった可能性や、あれが“人の上半身を象ったファンキーなボディバッグ”だった可能性も皆無ではない。
とはいえ、父が気づかなかった時点で生きた人間ではないのだろう……。
今でも“ピンク地に白い水玉模様”を見ると、あの異様な光景が脳裏を過ぎることがある。




