第四十二話 トイレットペーパー
高校時代の話。
ある日の放課後、部室で友人達と駄弁っていたら、尿意を催した。
一声かけて廊下に出ると、ほとんど真っ暗だった。晩秋から初冬という季節柄、16時半を過ぎればこうなるのも已む無しである。
照明のスイッチを押せば良いものを、大した距離ではないしとっとと済ませてくればいいと不精した。
便所までは真っ直ぐな廊下を直進して数十メートル。小走りで進めばすぐだが、明かりがないせいか距離感が曖昧になっており、やたらと遠く感じた。
体感であと10メートルほどとなった時、私の目が妙なものを捉えた。
左手にある便所の入り口からトイレットペーパーらしきものが廊下に伸びている。
自然に落ちたとは考えにくいので、誰かがいたずらでもしたのだろう。窓から風が吹き込んでいるのか、ひらひらと靡いていた。
やれやれと思いながら歩を進め、ほんの数メートルの距離まで近付いたところで、それがトイレットペーパーでないことに気付いた。
床を撫でるように動いているのは、ひとの腕だった。やたらと長く、指の先は廊下の中央付近まで届いているが、肩にあたる部位は見えない。
暗闇でもはっきり視認できるほど白く、音も立てずに揺れている。
明らかに生きている人間のものではなかった。
私は爆速で部室に駆け戻り、友人らに今見たことを話した。
すぐさま好奇心旺盛な数人が確かめに向かうも、その時には何もなかったそうだ。
せめてトイレットペーパーが落ちていたら勘違いということで納得できたのだが、気色悪いこと夥しいため、別の場所で用を足した。
件の高校が建っていたのは何の変哲もない土地で、私が通っていたのは開校して間もない頃だ。それらしい事件や歴史の類いも存在しない。
となると一体、“何が”入り込んだのだろう……。




