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第三十五話 ぐにゃ

 ※グロテスクな表現が含まれています。

 今回のエピソードは怪異ではない。単純にゾッとする体験談として印象に残っていたので紹介する。

 先述の通り、グロテスクな表現が含まれているため、そういった類いの話が苦手な方はくれぐれもご注意いただきたい。



 父の高校時代の恩師の話。

 彼が若かりし頃、学生寮へ続く道を歩いていたところ、強烈な尿意を催した。あいにく周辺には公衆便所も店舗もなかったため、やむなく路地裏へ入って立ち小便をすることにした。


 放尿し始めた直後、彼の横を女性が足早に通り過ぎていくのが見えた。現代に比べおおらかな時代だったとはいえ、女性に見られて気恥ずかしさを覚えた彼は、敢えてゆっくりと用を足し帰寮することにした。



 寮近くの踏切へ来た時、異変を感じた。電車が止まっており、周囲は人でごった返していて、どうやら事故があったらしいとわかった。


 よく見えないけど、なんだか大変なことになってるな……。


 しばらく立ち止まって様子を窺っていた彼が、一歩、足を踏み出した途端、


 ぐにゃ……


 足裏に異様な感覚が伝わった。


 なんだろうと足元を見た彼は我が目を疑った。


 

 電車に接触して弾き飛ばされたのであろう。

 人の頭部──厳密に言えば、鼻から上──が逆さまの状態で転がっていて、彼はそれを踏んでいたのだった。

 こめかみあたりの頭皮から伸びる長めの髪には見覚えがあった。ひょっとしたら、さっきの──。



 その後、息も絶え絶えに寮へ帰りついた彼は、食堂で夕食を食べようとしている友人らに向かって大声を張り上げた。


「お前ら、表がすごいことになってるぞ! 踏切のとこだ。ちょっと見てこいよ」 


 この言葉に騙された友人達は、「おおっ、なんだなんだ!?」と全員テンション高めに飛び出して行った。


 ほどなくして青い顔で戻って来た彼らは、誰も食事を摂れなくなってしまった。


「お前のせいで飯が食えなくなっただろうが。どうしてくれる」


 皆に責められた彼は、「俺だけ食えないのは癪だから、お前らにも道連れになってもらった」と言い放ったそうだ。


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