第三十二話 境目
私の知人・X氏は、いわゆる視える人だ。曰く、“悪ガキ時代”から数々の怪異に遭遇しているという。
しかしいつまで経っても慣れることはなく、霊障に悩まされることも多い。
だからX氏は、それらとの意図せぬ遭遇をなるべく回避するよう努めている。
引っ越しする際には、事故物件情報サイトをチェックし、不動産会社の担当者から「心理的瑕疵物件ではない」と言う説明を受けても鵜呑みにしない。そして、「自分は本当に霊の影響を受けるタイプだから、そういう物件は絶対勘弁して欲しい。嘘をつかれても、視えるから内見すればすぐわかる。それ聞いても、瑕疵物件じゃないって言い切れる?」と事前に探りを入れるレベルで警戒している。
にもかかわらず、若い頃は心霊スポット巡りを趣味にしていたのだから、かつての彼は豪胆と言うより無鉄砲だったように思う。
怪異に限らず、いくつもの強烈なエピソードを持っているX氏だが、今回は単純に私の好きな話を紹介したい。
ある日の日中、X氏が駅前を歩いていると、視線の先にあった街路灯の陰からひょいと人が出てきた。その街路灯は開けた場所に立っていて、形状はよくある細いポール型だ。当然、人が隠れられるスペースなどない。まるで、何もない空間から湧いて出たかのようだったという。
さらにX氏を驚かせたのは、その相手がよく知っている人物だったことだ。
彼の亡祖父である。
X氏と目が合うと、祖父は「おお!」とうれしそうな表情を浮かべ、またパッと消えてしまったそうだ。
“あちらの世界”との境目は、思いのほか曖昧なのかも知れない。




