第三十一話 波長
高校時代の話。
朝、バスに揺られて橋の上まで来た時、川辺に佇む人の姿が目に入った。釣り人か、散歩に出ている近隣の住民だろうか。男性のようだが、周辺の景色と比べてやけに輪郭が淡い気がした。
もっとも、移動中のバスの車窓越しの景色だ。揺れや何かでこのように見えることもあるだろうと思い、すぐに視線を外した。
直後、誰かに話しかけられたような気がした。やがて耳鳴りがし始め、頭と肩が重くなる。寒気もひどい。症状から見て、風邪でも引いたかと考えていた。
教室に入ると、近くの席のWさんと目が合った。
彼女は何かに気づいたような表情を浮かべ、こんなことを言った。
「あ、ついてきちゃってる」
初めは何のことかわからなかったが、彼女には霊感があるらしいという噂を思い出した。
何が見えるのか訊いてみたところ、背後にずぶ濡れの男性がいると返された。ここに来て、先ほどの光景が浮かび、あの時に拾ったのかと合点がいった。
体調不良含め、Wさんにはまだ何も話していない。どうやら本物らしい。
そこであらましを伝えたら、Wさんは頷き、再度、私の肩越しに背後を見遣る。釣られて振り返るも、当然それらしい姿は見えない。
霊視?を終えた彼女が言うには、たまたま“波長”が合っただけで、私に対して悪い感情はないようだから、放っておいても大丈夫だろうとのことだった。
とは言え、不気味なことに違いはない。頭重と肩の重さも続いている。風邪だと思い込んでいたほうがずっと快適に過ごせたのではあるまいか。
ひとまず件の男性に向けて、頭の中で「自分には霊能力の類いは一切ないので力にはなれない、どうか他所に行って欲しい」と念じておいた。
授業に集中できないまま昼になった頃、再びWさんに話しかけられた。
「どう?」
気がつくと、妙に体が楽になっていた。
その旨を話したら、彼女は「さっきの人、いなくなってるから、大丈夫そうかなって思って」と言った。
ほっとした私がWさんに感謝しつつ、脳内で男性に向けて念じていたことを伝えると、「それが通じたんだと思う。良かったね、話のわかる人で」と事も無げに返された。
話のわからない相手だった場合、家までついて来たのだろうか。




