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第二十九話 居た
母方の親戚・M氏が子供の頃、近所で不幸があった。この家を仮にZ家としておく。
当時、冠婚葬祭にまつわる事柄は隣近所で協力して賄うのが主流で、多くが自宅葬の形式を取っていた。M氏の家族達も手伝いに出向き、慌ただしい時間が過ぎていった。
すべてが滞りなく運んで解散と相なったため、M氏の家族は自宅に戻って一息ついていた。
すると、Z家の娘さんが血相を変えて飛び込んで来た。どうしたのか訊いたところ、こんなことがあったという。
娘さんは葬儀の後、一足先に自宅へ戻った。父を失った悲しさや疲労、無事に送ることが出来た安堵感を抱え、暗い玄関をくぐる。
居間で休憩しようと思い、手探りで照明のスイッチを入れた。
そこには、つい今しがた埋葬してきた父が居た。彼はテーブルについて、生前と同じようにお茶を飲んでいたそうだ。
ひょっとすると、自分が鬼籍に入ったことに気付いていなかったのかも知れない。
M氏は周囲が大騒ぎになった当時の様子を鮮明に覚えているという。




