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第二十八話 イタ電

 小学5年生の時の話だ。

 ある日の放課後、掲示係だった私と友人・Mは、プリントやポスターの類いを壁に貼っていた。

 初めは担任も一緒に作業をしていたのだが、職員室に用があるとのことで「適当に進めてて」と言って出ていった。

 大した数でもなかったので、担任が戻る前に作業は終了し、私とMは馬鹿話をしながら待機していた。


 気が付くと、時間は午後4時半をまわっていた。晩秋という季節柄、辺りはすっかり暗くなっており、自分達の教室以外は窓外も廊下も真っ暗だ。



 早く帰りたいと思い始めた頃、教室の内線電話が鳴った。

 自分達が出て良いものかと逡巡したが、担任からの連絡かも知れないと思い、受話器を取った。


「はい。5年×組です」


 返答はない。


「もしもし?」


 しばらく様子を窺っていたが、相手はずっと無言のままである。

 誰かの悪ふざけだと判断した私は受話器を置いた。


「誰から?」と問うMに、「イタ電っぽい」と返した直後、再度、呼び出し音が鳴る。

 嫌な予感を覚えつつ出ると、案の定、無言電話だった。「どちら様ですか?」と訊いても、何の反応もない。

 訝しげなMに身振り手振りで“さっきのイタ電”らしいことを伝え、パスする形で受話器を耳に押し当てたら、Mも眉根を寄せて首を傾げた。


 釈然としない気持ちで電話を切る。

 ふと、我々が残っていることを知っている同級生の誰かが、近くの教室からかけて来ている可能性を考え、Mと一緒に見回った。しかし、辺りに人の気配はない。夕闇の迫る廊下は非常灯の明かりしか光源がなく、ものの輪郭がようやく分かるレベルの暗さになっていた。


 気味が悪くなり、職員室に報告して帰ろうかと相談していた時、また呼び出し音が鳴った。


 どきりとして、一瞬、Mと顔を見合わせる。

 今度はMが受話器を取った。私も横から受話器に耳を寄せる。


「はい……」


 何も言わない。同じ相手だ。

 それがわかったと同時に、気の強いMが声を荒らげた。


「さっきからいい加減にしろよ! 誰だ!」


 すると、少しの間があり、電話口から声が聞こえた。


 “ミィ、チャン?”


 幼い子供のような声だった。舌足らずな口調でそれだけ言うと、電話は切れた。

 

 私とMはランドセルを引っ掴むと、一目散に教室から飛び出した。担任に報告がてら職員室に逃げ込むという手もあったが、一刻も早くその場から去りたかった。そもそもとっくに作業は終えているので、責任は果たしている。あとはもう知らんと思った。



 翌日、担任から教室の電気を消して帰らなかったことを軽く注意された。その際、Mと共に事の顛末を説明したのだが、うまく伝わらなかったようで有耶無耶になってしまった。


 その後、特段変わったこともなかったが、しばらくの間、私とMは内線電話が鳴る度にびくついていたことを思い出す。

 結局、()()が誰だったのか、“ミィチャン”とはどういう意味かも不明のままだ。

 

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