第二十五話 「────?」
ある晩、私が自宅の風呂場で髪を洗っていると、浴槽の方から人の気配を感じた。
何の前触れもなく“誰かがそこに現れた”といった感覚で、背筋に冷たいものが走った。
ちょうどシャンプーを洗い流し始めたタイミングで目が開けられなかったため、気のせいだと自分に言い聞かせて洗髪を続けていると、
「────?」
それがいる方向から声が聞こえた。
高齢男性のような声だった。
くぐもっている上、シャワー中だったこともありよく聞き取れないが、非難がましい口調で何か訊かれたのはわかった。
「んー……!」
怖かったが逃げるに逃げられないので、私は対応不能だというアピールと少々の威嚇を兼ねて、短く唸った。
途端に、
「────!?」
相手が先ほどの2倍の声量と“圧”で同じことを言った。
しかも、今度は私の頭の上でだ。
恐怖を通り越して無性にイラッとした私は、同様に2倍のボリュームで唸った。
「んん──っ!!」
シャンプーが流れ込まないよう口を閉じていたため、怒気を含んだ凶暴なハミングを聞かせた格好になる。
思い返してみると間抜けなリアクションだが、相手は気後れしたのか、二言三言もごもご言ったあと、いなくなった。
洗髪を終えて確認したところ、案の定、誰の姿もなかった。
どうやら、競り勝ったらしい。
あれからしばらく経つが、同じことは起きていない。




