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第二十一話 客人

 学生時代の話。

 その日、私は学校から帰宅するや否や、真っ直ぐ2階の便所に向かった。寒い時期だったため、バス停から自宅までの間に催すことも多くなっていた。


 便所は階段を上り切って右に曲がるとすぐの場所にある。

 足早に移動し、いつものように右折した瞬間、面食らった。

 客がいたのだ。

 便所前の通路には大型の本棚があるのだが、その前に若い男性がいた。20代くらいだろうか、茶髪でストリート系の格好をした彼は、興味深げに本の背表紙を見ている。


 本棚と便所は数十センチと離れていないこともあり、正直気まずい。

 だが一刻も早くすっきりしたかった私は、「すみません、失礼します……」と軽く頭を下げ、便所に駆け込んだ。


 用を足し終え、戸を開けると男性はいなくなっていたので、下に行ったのだろうと思った。


 その後、1階の居間で寛いでいた母に、客は帰ったのかと訊ねたら、何のことだと首を傾げていた。

 今の出来事を話すと、母は呆れた様子で言った。


「お客さんが来てるなら、玄関に靴があるはずでしょ。あんたが帰ってきた時、そんなのあったの?」


 (もっと)もな話である。いくら私がそそっかしくとも、玄関に見知らぬ靴があればさすがに気付くはずだ。

 それに、よく考えてみれば、客人が一人で()()()()()()()にいるのは不自然だった。実家の2階には便所と寝室、そして父の書斎──と言う名の納戸──しかないのだ。


 あまりにはっきり見えたので、てっきり父の仕事関係の人か、母の友人の御子息とばかり思っていたのだが、どうやら異界の住人だったらしい。


 近くで話を聞いていた父は、「その兄ちゃんは生前、本好きだったんじゃねぇか? うちの蔵書はすごいから、興味を引かれたんだろう」と笑っていた。


 ちなみに、件の本棚があるのは父の書斎の正面で、以前書いた“裏鬼門”の近くに位置している。


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