第二十話 兄の導き
母方の祖父の兄(三兄)・T氏は、物静かであまり社交的な人ではなかった。だが、非常にドラマティックな体験をしていたという。
彼が存命だった頃、私はまだ子供でほとんど交流がなかったため、祖父や母から伝え聞いた話を掻い摘んで記す。
太平洋戦争中、仲間の操縦する戦闘機に乗り込み出撃したT氏は、上空で敵の攻撃を受けた。機体はコントロールを失い、墜落し始める。
この高さから落ちれば、まず助からない。
ここまでか……。
T氏が覚悟を決めた時、視界の端に兄のY氏が現れた。
「T、奧に行け。そこの隅に座っていろ」
言われるがまま無我夢中で身を屈めてすぐ、轟音と激しい衝撃に見舞われ、彼は意識を失った。
その後、意識不明が続き、一時は生命が危ぶまれたが、T氏は奇跡的に助かった。
だが操縦していた仲間は亡くなった。それも頭部が胴体にめり込むという凄惨な最期だったという。
ほんの数十センチ離れたことが生死を分けた。兄の導きがなければ、自分の命もなかっただろうとT氏は述懐していた。
Y氏は祖父の次兄で、T氏が出撃する前に戦死している。豪気にして明敏、家族想いな人だったそうだ。




