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第十六話 今来たとこ

 父が中学生の頃の話。


 いつものように登校し教室へ向かおうとしていたら、友人が歩いてくるのを見かけた。 

 おはようと声を掛けるも、友人はこちらを気にせず父の前を通り過ぎ、廊下の角を曲がった。


 聞こえなかったのか?

 父はもう一度声を掛けようと、彼の後に続く形で廊下を曲がったのだが、そこには誰の姿もなかった。

 その間、わずか数秒。近くに隠れられる空き教室やトイレなどはない。


 あいつ、ふざけてダッシュしたな、と思った父は教室まで走り、件の友人を探したが見つからない。

 クラスメート達に確認したところ、まだ来ていないとのことだった。


 自分は確かに彼を見ている。すぐ目の前を通ったのだ、見間違うはずはない。


 父は訝りながら昇降口に取って返した。

 すると、件の友人が他のクラスメートらと話しながら校門をくぐって来るのが見えた。


「あれ? お前、さっき校舎の中にいなかった?」


 驚いた父が問うと、友人は不思議そうな顔で「いや? 今来たとこだけど」と返した。一緒にいたクラスメート達も「俺ら、ずっと一緒だったよ」と同意する。


 彼らが嘘を吐いている様子はなく、勘違いということで納得せざるを得なかったが、父は今でもあれはドッペルゲンガーだったと信じている。



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