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第十一話 ピョン
母は件の貸家でもう一つ、不気味な体験をしていた。
当時、例の物件の近くにはガス会社があり、夜遅くまで“ガスを作る音”が聞こえていた。
シューン シューン シューン、ブォーンといった音が絶えず鳴り響いていて、稼動中はなかなかに喧しい。
ところが営業時間が終わった途端、まったくの無音になる。それこそ、シーンと音がするほど静かになるのだという。
母が気にしていたのは、ガス会社の仕事が終わり、寝支度を整えたあと。寝入り端に“ピョン”という謎の音がすることだ。これにより目が覚めることも一度や二度ではなかった。
初めのうちはこの異音について、常に鳴っている騒音の残響、あるいは自分が眠りに入った後も鳴っている何らかの音を無意識に拾っているのだろうと思っていた。
だが、前回の怪異に出遭ってから、母の見解は一変した。
「バケモノが出るって思ってないからさ、いつも眠りかけるとピョンて鳴って目が覚めるなーとは思ってたけど……後で考えてみれば、それって(霊的な)ラップ音だよね。ちょくちょく鳴ってたし、他にもいろいろ居たのかも」と母は肩を竦めた。




