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第3話:初めての戦い、そして“喰らう”衝動

第3話:初めての戦い、そして“喰らう”衝動

鋭い爪を振りかざして獣が突っ込んでくる。体長はおそらく2メートル以上、全身が筋肉で覆われ、獣の迫力は凄まじい。今までのような小さな生物とはまるで別物だ。俺は、襲いかかる獣に一瞬たじろいだが、すぐに歯を食いしばる。


「逃げるわけにはいかない……!」


ここで食われてしまえば終わりだ。この世界のルールがそうだと言うなら、俺がやるべきことは一つ――“喰らう”ことだ。


「喰らえ!」


俺は叫びながら右手を振りかざす。すでに黒い霧が手から広がり、獣のほうへと伸びていく。だが、その瞬間――獣が鋭く吠え、黒い霧をかき消すように横に飛んだ。


「くっ……!」


思わず舌打ちする。予想以上に速い!先ほど喰らったウサギに似た生物の「速さ」のおかげで、こちらも素早く動けるが、あの獣の動きはそれ以上だ。これは厄介だ。簡単にはいかない。


獣は低い唸り声を上げ、獲物を狙うような目でこちらを見据えている。俺は冷静に、しかし心の中では焦りを感じていた。迂闊な動きはできない。奴に隙を与えれば、こちらが喰われる側になる。


「だったら……こっちから仕掛ける!」


俺は全力で獣に向かって駆け出す。黒い霧を右手に纏わせ、鋭く突き出すと、獣は再び跳んで避ける。しかし、今回は逃がさない!素早く体をひねり、獣の移動先に合わせて手を振る。霧が弧を描いて獣を包むように追いかける。


「今度こそ……喰らえッ!」


霧が獣に触れた瞬間、黒い影のように広がり、獣の全身を包み込んだ。獣が暴れようとするが、その動きが徐々に鈍くなり、霧の中で姿が溶けていく。まるで霧が獣を飲み込み、跡形もなく消し去っていくかのように。


「……はぁ、はぁ……やった……か?」


気がつけば、獣の姿は完全に消えていた。黒い霧も薄らいでいく。そして――体の奥底から、力が湧き上がる感覚が俺を襲った。前回とは比べ物にならないほどの激しい力の奔流。体の内側が熱く、そして重くなっていく。


『力を得た……筋力と、俊敏さ……』


再び頭の中に響く声。体中にエネルギーが行き渡るのを感じる。先ほどまでの自分とはまるで違う。筋肉が膨張し、足には力がみなぎり、腕はしなやかに動く。何よりも、身体の奥底から満ちてくるこの圧倒的な感覚――これが“喰らう”ことで得られる力なのか……!


「これが……俺の力……!」


両手を握りしめると、あふれんばかりの力が湧き上がってくる。獣を喰らったことで、その獣が持っていた力の一部が俺に宿ったというわけだ。筋力と俊敏さ、すべてが増している。これなら、今までの自分とは比べ物にならない戦いができる。


しかし、その喜びも束の間。全身に異様な感覚が走る。頭の中に獣の咆哮のような音が響き、胸がざわつく。


『喰らえ……もっと……もっと……』


「……なんだ……?」


突然湧き上がってきた衝動。全身が何かを欲しがっている。そう、“喰らう”ことを……。目の前に新たな獲物を求めるような気持ちが抑えられない。俺は思わず、荒々しい息を吐く。


「……落ち着け……!」


自分に言い聞かせる。喰らうことで力を得る。それがこの世界のルールだということは分かっている。だが、この感覚はまるで自分が獣になったかのような、理性を失いかけるほどの欲望だ。このままでは、ただの化け物になってしまうのではないか……?


「俺は……俺は、ただ強くなりたいだけだ……!」


荒れる心を必死に抑えつけ、拳を握りしめる。喰らうことが力の源であるのは事実だ。しかし、無秩序に食らい続けるだけでは、いつか自分自身を見失ってしまうかもしれない。この世界で生き抜くためには、ただ力を求めるだけでなく、理性を保ち続ける必要がある。


「強くなるんだ……そのために、喰らうんだ……!」


俺は自分に言い聞かせ、立ち上がった。新たな力が体に満ちているのを感じながら、再び森の奥へと視線を向ける。この先には、まだまだ未知の生物や獣が潜んでいるはずだ。そいつらを喰らい、俺はさらなる力を手に入れる。それがこの世界で生き抜くための唯一の道だ。


「次の獲物を……探そう」


冷静さを取り戻し、ゆっくりと歩き出す。そう、俺にはまだやるべきことがある。喰らって、力を蓄え、この世界で生き抜いてやる。そしていつか、この世界の食物連鎖を覆す存在になるために――。

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