謝罪
こんな夢を見た。
駅のホームでベンチで電車を待っていると、ハトがてくてくと自分のそばにやってきた。きたって、やれるものは何もないし、ハトにエサをやるほど物好きじゃない。はぁ、とため息をついた。自分はこれからも何年もこうして電車に乗り、つまらない仕事をし続けるのか。本当、私は何のために生きているのだろう。何がしたいのだろう。
何もしたくない。何もしたくないのだ。なのに、ずっと私は働いている。やめてほしい。コミュニケーション能力もないし、ストレスはたまりやすい方だし、ほんと、生きてて良いこと1つもない。
皆、何が幸せなんだろう。どうして生きているんだろう。何も面白くないじゃないか。生きてて何も面白くないじゃないか。
ハトはいつか消えていた。私はホームで一人、本を読んでいた。田舎だから、電車がなかなか来ない。まぁ、ずっと来なくて良いけど。
この何も面白くない世界で人はどうして生きているのだろう。こんなに不幸を感じているのはもしかして自分だけなのだろうか。きっとそうだ。そうに違いない。私以外は皆、幸せなのだ。私だけが、まるで世界中の不幸をゴミ箱に全部集めたみたいに、不幸なのだ。
苦しいものだ。どうしてこんなに苦しまなければならない。誰のせいだ。誰を責めればいい?神か?仏か?
絶対に己自身を責めろだなんて言わせない。そう。何で私の責任なんだ?意味がわからない。意味がわからないんだ。私のせいじゃねぇだろ。
「違うよ」
どこかから、声が聞こえる。
「違うよ」
後ろを向いた。小学生ぐらいの男の子が立っていた。
「誰?」
「違うよ」
「・・・何が?」
「君のせいだよ」
「え?」
「他人のせいにするのは、甘えだよ」
「は?」
「他人のせいにするのは、甘えなんだよ」
「なんだよ、急に」
私は呟いた。
「自分のせいにすると、気持ち良いんだよ」
「・・・」
「自分のせいにすると、格好いいんだよ」
「・・・」
この男の子を、どこかで見たことがある。この子は・・・。
「ごめんね。僕の伝え方が悪いみたいだね」
男の子は、小さな手で、頭を掻いた。
「ごめんね。全て僕が悪いんだ」
「何なんだよ・・・」
「ごめんね。僕のせいなんだ」
「やめてくれ」
「ごめんね。ごめんね」
男の子は、私に謝り続けた。この子は・・・、小学生の頃の、私・・・。
「ごめんね。ごめんね」
「謝って許されようとするな!」
私は叫んだ。
「どうして?」
私の声が、他に誰もいない駅のホームでこだまする。
「どうして?どうして?」男の子は続けざまに聞いてきた。「どうして自分のせいにしちゃいけないの?」
「謝るのは、お前のエゴだからだ」
「エゴ?わからないよ。説明してよ」
「誰のために謝っている?お前のために謝っている!」
「僕のため?どういうこと?わからないよ」
いつの間にか男の子は私の前まで回り込んでいた。
「失敗があっても、自分のせいにすれば、楽になれる。自分のせいにしていれば、自分を肯定できる。自分を好きでい続けられる。見たくないものは、見ないでいられる」
「どうして?見たくないものを見ないで、見たいものだけ見て、何が悪いの?」
「何も悪くない」
「じゃあ、どうして?」
「悪くない。悪くないんだ」
「じゃあ・・・」
「それが、私だ!」
夢は終わった。ベッドの上にいた。昨日と変わらぬ私が、そこにいた。