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八話 『襲撃(後編)』

閣下 「全隊、かかれぇっ!」

その叫び声と共に、一斉に行動が開始される

今回のガサ入れで調査される家宅はおよそ30棟

夜中の寝静まった時間帯を狙い、それぞれの家が四方が既に包囲されていた

各隊長は割り振られた家に向かい、一斉に検挙を行うのだ


………

……


閣下 「ふんっ!」

彼女(閣下)はゲリラが潜んでいると思われる家を強引にけり倒し、中に押し入る

彼女の後ろには、完全武装の部下が数人控えており、裏口なども封鎖されていた

男A 「っ!」

  「な、なんだ突然!」

いままで寝ていたらしいこの男は来訪者の姿を確認すると、恐怖を一身に感じる

人間たちにとって、この制服(治安維持局)を見かけることはイコール死亡宣告を受けるようなものだ

だが、大の大人がここで子供の様に泣きじゃくる訳にはいかないという陳腐なプライドのおかげか、彼はギリギリ取り乱すことは無かった

閣下 「お前には反政府運動の容疑がかかっている」

   「法律に基づきお前を逮捕する」

   「向こうまでご同行願う」

そう言って、アクロポリスの方角を指差す

男A 「なっ…!」

彼は知っていた。逮捕されれば公正な裁判など行われず、即殺害されることを

なぜなら裁判長も、目の前にいる羽の生えたバケモノの同族であるのだから

容疑などいくらでも作れるのだ

男A 「反政府だと?」

  「お、俺はゲリラじゃない!信じてくれ!」

  「ゲリラもここにはいない!」

  「なんなら今から部屋を探して貰ってもいい!」

閣下 「…我々には容疑者が無駄な抵抗をすれば、最低限度の実力行使が許可されている」

   「不要な発言は謹んで貰おう」

男A 「…」

つまり、『黙って殺されろ』ということに他ならなかった

男A  「…チッ!」

   「…好きにしろ」

両手を上げ降参のポーズを取る

閣下 「ご協力、感謝する」

   「さあ、連れてけ!」

   「だが、この男はまだ容疑者ということを忘れるな。まだ罪が確定した訳ではない。丁重に扱うように!」

部下A 「は!」

男が取り押さえられ、外に連れ出される

閣下 「…」

閣下は男の後ろ姿を追いながら、この一連の出来事に内心安堵していた 

この男は比較的に物分りの良い人間だった

普段ならば、暴れて無力化するまでに時間がかかったり、火薬型前方投射兵器(ライフル)で抵抗を試みる人間もいる

特に後者は実害が部下にも及ぶため、どうしても殺害するしか手段がなくなってしまうのだ

他の天使族はどうか分からないが、少なくとも閣下は人間を容易に殺めることはあまり気が進まない人物であった

部下A 「がはァッ!」

閣下「!」 

だが、事態はそう容易なものではなかった

男A 「こんな所で死ねるかよ!」

男はこの弛緩した空気を逆手に取り、自分を拘束していた天使族に不意打ちを食らわせる

男A 「死ねぇ!」

返す刀で彼女に拳を向けて来た

だが…

閣下 「ハァッ!」

刹那、男の胴体が上下で真っ二つに切断される

男A 「…」

  「バケ…モノ…め」

下半身の支えを失った男を地べたにひれ伏す

胴体からは鮮やかな赤い液体が地面を汚していた

閣下の右手には、一振りの剣

月夜と鮮血を受けたこの剣は、その金属光沢も相まって艶かしく映っていた

閣下 「…生きていれば、なんでも出来ると言うのに。なぜ、人間達はこうも死に急ぐのか」

そう男に吐き捨てる

男A 「貴様…ら…俺が死ん…でも、人間は抵抗を…止めない。必ず…お前らを…皆殺し…」

男は下半身を失い、大量出血をしてもなお、足を掴んでこちらを害しようする

目には闘志を宿らせ、こちらを睨んでくる

その針のような視線は、様々な死線をくぐり抜けてきた彼女でさえ、背筋に冷えたものが通るほどだった

閣下 「…そうか、それがお前の答えか。お前は自分の正義のために死ぬんだな。私たちと一緒だ」

男A 「…」

男は答えなかった


………

……


部下A 「申し訳ありません!私のミスで!」

そう言って、部下が深々と頭を下げる

閣下 「頭を上げてくれ」

   「こちらの過失だ…人間を少々甘く見ていた」

そう言って、生々しく二つに分かれた死体を眺める

閣下 「…」

心の中で、十字を切る

他民族と雖も名誉と尊厳は守られるべきなのだ

だが、その尊厳を破壊している筆頭が自分とは皮肉な気分になるが

部下A 「閣下…?」

閣下 「いや、何でもない」

部下A 「それにしても、この劣等民族は卑怯でしたね。こちらが矛を収めたら直ぐに襲ってくるなんて」

   「これだから人間族は…」

場の重々しい空気を察したのか話題を変えてくれる

閣下 「そうだな」

   「だが、我々も彼らと同じ立場になった時には似たような行動を取るかもしれない」

   「だから、一概には馬鹿にはできない」

「むしろ、上司である私を真っ先に無力化しようとするのは、機転が効いていたな」

部下A 「…そんなに人間族を評価なされるなんて、珍しいですね」

閣下 「昔にあった『ニホン』という国にこういう諺があったんだ。『勝って兜の尾を締めろ』と」

部下A 「…?どういう意味なのですか?」

閣下 「簡単に言えば、いくら人間といっても油断はいけない」

   「…ということだ」

部下A 「全くその通りですね」

閣下 「さぁ無駄話はここまでにしよう」

   「持ち場に戻れ」

部下A 「は、はい!」


………

……


部下B 「フーロガ〈火炎〉!」

私の部下の一人が、発火魔法を使う

その後、ゲリラの検挙は無事成功し、僅かな生存者を残して殆どが殺処分された

そして、そこで発生した遺体や遺品を『B地区』の中央広場で纏めて焼却するのだ

部下は、キャンプファイヤーの如く、炎を中心に円を囲んで談笑したり、民族舞踊をしている

上司の私としては、そこに交わって部下との交流をするか、風紀を正すために止めさせるかの2択だったが、今はどちらも選びそうにない

こういう日はいつも気分が沈む

閣下 「…」

たまに想像するのだ

人間と、我々はどこがどう違うのか

どういう権利で人間は虐げられ、我々は彼らを搾取出来るのか

人間と共存出来る道もあるのではないかと

このゲリラのガサ入れも、無事生きて逮捕しても、その場で処理しても結果は同じなのだ

人間は必ず、死ぬ

我々によって

閣下 「はぁ…」

ため息を吐く

今の体制に文句を言うつもりはないが、どこか致命的な矛盾があるように思えてしまう

しかし、上からの命令、もとい女王陛下の命令は絶対なのだ

私なんかが疑問を持つことは許されない

…もう考えるのは止めよう

閣下 「よし…!」

私は、部下たちの元に向かう

いつの間にか雨は止み、星が見えるようになったが、私の心はまだ晴れそうに無かった

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