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七話 『襲撃(前編)』

全ての生き物が、全ての物が、消滅した様なこの空間に、滑稽に響く時計の針の音

その針の音さえ、外の雨音と雷雨によってかき消される

それは時計の最後の存在価値を冒涜しているような感覚に襲われた

この時計の針は何のために音を鳴らしている?誰にも聞かれず、淘汰され、それでも孤独に音を鳴らし続ける

…まるで人の世のようだ

ゼオ 「…」

我は窓越しから居住区を見渡す

更地の上に乱雑に組み上げられた家屋たち

かつてのような神経質なまでの整然さ、清潔感は存在しない

だが不思議なもので、これもまた人の成す業だと納得してしまう

コスモスからカオスへ、これは決して悪いことではないかもしれない

この景色も…悪くない

ゼオ 「む?」

ふと目を凝らしてみると、今まで暗闇に飲まれていた町並みに一点の光が灯る

これをきっかけに一気に光の点が拡散し、見た目だけだと何かの祭りのような雰囲気である

その一つ一つの光は意思を持ち、元気に動いていた

ゼオ 「ついに始まったか…」

だが、これは祭りなどとおめでたいものではない

今日もまた殺戮と、破壊が行われる

ゼオ 「…今宵は何人が死ぬことになるのか」

我に出来ることは無い

ただ、被害が最小になることを祈るのみである


………

……


光が最も強い場所

そこに彼らはいた

部活A 「閣下、全ての配置が完了いたしました。後は、貴女の許可だけでいつでも動けます」

閣下 「遅いっ!予定よりも32秒も遅れている」

   「この瞬間にゲリラの連中が逃げ出していたらどう責任を取るのだ」

『閣下』。そう呼ばれたこの天使族は、理不尽なまでの完璧主義を標榜し、部下を責め立てていた

決してこの部下が無能だった訳ではなく、雨と雷雨で、彼らの動きがどうしても緩慢になってしまっていたのだ

部下A 「…」

だが、彼は反論しない

予定までに配置を完了していなかったのは事実なのだから

発光魔法で下から照らされた彼の顔は、平時の数倍も申し訳そうに映っていた

閣下 「まあ、良い」

   「むしろ、こんな天候でほぼ予定通りになったのは感謝しているぞ」

   「今のは、上司として、『体』で叱っただけだ」

   「気に障ったならすまない」

と、苦笑いを浮かべた

この『閣下』もまた教条的な無能ではなく、状況に応じて適切に判断が出来る相応の人物であった

   「さあ、持ち場に戻れ」

部下A 「は、はい」

そう言って、彼は持ち場に戻っていった


………

……


閣下 「各部隊長は全員揃っているか?」

部隊長A 「はい。全員揃っています」

部隊長B 「いつでも行けます!」

閣下 「よし!」

   「今さっき、部隊の配置が完了したという報告を受けた」

   「役は揃った!今から賽は投げられる!」

    「皆、心していけ!」

天使族 「オォォォォォォ!!!」

この雷雨の中、澄んだ声で『閣下』の演説が始まる

その表情、声色、姿からは失敗など恐れぬ不動の精神を体現しており、それに当てられて部下達の士気は最高潮に達していた

閣下 「現在、このB地区には憎きゲリラが潜んでいるという情報を得ている!」

   「先日の武装蜂起で処理しきれなかった残党がこの地区に続々と集結しているのだ!」

   「この10数年間の間、血と涙で築き上げた我々の秩序を、テロリストの、それも人間如きに破壊される訳にはいかない!」

   「我らの正義と、女王陛下に誓って、奴らを見つけ出し、極刑に処すのだ!」

オォォォォォォォッ!

街全体にこだまするように彼らの雄叫びが響き渡る

それは正義の名の元に行われる殺戮の始まりであった


………

……


オォォォォォォォッ…!

テセラ 「!?」

その叫び声とともに、俺は飛び起きる

窓から街を見下ろすと煌々と明かりが見える

…ついに始まったか

テセラ 「やだ…死にたくない」

さっきまで平気そうに振る舞っていたのに、唐突に絶望感に襲われる

足は震え、歯がカチカチと鳴っている

『奴ら』は本当に気まぐれだ

いつここが暴かれ、殺されるのか分からない

テセラ 「やだ…やだ…」

布団を頭から被り、全ての感覚を断ち切ろうとする

こうして身体をもぞもぞと動かしていると何か温かいものに触れた

テセラ 「?」

その感覚をする方を見ていると…

ゼオ 「…」

妹が同じベッドに横たわり、こちらをじっと見つめていた

ゼオ 「怖いか?」

テセラ 「…いや、そんなことない」

軽薄なまでの見栄の張り方だった

そんなことをしても妹にはお見通しだと言うのに

ゼオ 「…そうか」

   「今日はなんだか一緒に寝たい気分なんだ」 

   「一緒に寝てくれないか?」

テセラ 「…仕方ないな」

お互いに抱き合って眠る

それだけの行為のはずなのに、俺の凍えた心は急速に溶けていく

ゼオ 「大丈夫、我がテセラを守ってみせる」

   「だから、安心して眠るといい」

テセラ 「大人ぶりやがって…」

そう言いつつも、俺はだんだんと眠くなって…

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