六一話 『平和の為の戦い(1/3)』
それは突如として始まった
D地区とアクロポリスを繋ぐ境が突如として破壊された
原因は、勿論ゲリラ。巧妙に仕組まれた時限爆薬によって、天使族が見張っているであろう詰め所ごと全てを破壊した
そして、その穴になだれ込むようにゲリラがアクロポリスに侵入した
この間15分。見事と言う他ない
………
……
…
テペリア 「ふむ…とうとうD地区のゲリラが動き出したか…」
これは予想通りと言うべきか。いずれD地区とことを構えるのは、予定調和だったろう
なまじ、近年は戦闘らしい戦闘が起こっていなかったために、シィネルガシアがD地区の武力攻撃に強く反対していた
だが、向こうから剣を突きつけてくる以上は、徹底的な破壊以外は…無い
「それで…?兵力はいかほどか?」
伝令兵 「先の『集積所の戦い』の何十倍の兵力を擁しております」
「それに、高射砲や迫撃砲、重機関銃などの重装備であり、周辺の守備兵では、太刀打ち出来ず…」
テペリア 「ふむ…まぁ想像通りか」
内通者やゲリラから、近しい者から情報は得ている
そこまで動揺することは無かった
「よし、一個師団を出せ」
伝令兵 「一個師団…ですか?」
「それは…テペリア総督府領のほとんど全軍ではないですか?」
テペリア 「そうだが?何を驚く必要がある?」
伝令兵 「D地区方面に全軍を差し向ければ、他の方面の防衛が疎かになります」
「となると、B地区をはじめ、他の区の反乱が脅威となりますが…」
テペリア 「…お前は、今日まで何を見て生きていたのだ」
「A・C地区は既に壊滅状態。人間の人口も減り、消滅は時間の問題だろう。そんな者たちが、組織的な反乱を起こせると思うか?」
「B地区も然りだ。あそこは、例外的に協力な指導者がいるらしいが、先の戦いで半数を潰した。彼らが大規模な戦闘を起こすとは思えないがな」
「それに、今ここ(アクロポリス)を守る近衛兵の隊長は誰だ?シィネルガシアだろう?」
「私とて馬鹿じゃない。シィネルガシアは嫌いだが、その能力は強く買っている。だから、多少なりとも兵の指揮権を与えたのだ」
伝令兵 「な、なるほど…」
「それと、シィネルガシア様が報告していた敵の天使族についてですが…」
テペリア 「私はそれについて懐疑的だがな」
「シィネルガシアが、自らの失脚を恐れて、出鱈目を言っているようにしか思えないのだ」
伝令兵 「(シィネルガシア様の能力を買ってる割には、彼女が言った言葉は信じないんだな…)」
「…申し訳ございません。不確定な情報に惑わされました」
テペリア 「うむ。さぁ、早く軍に連絡を取れ」
ゲリラ共め…銃と爆薬が人間の特許だと思うなよ…
私が作り出した『機械化師団』の力をとくと味わうが良い…
………
……
…
B地区と違い、D地区の戦闘ドクトリンは少々異なる
勿論、ゲリラ的な神出鬼没な戦闘は行うが、どちらかといえば、正規軍的な、鉄と砲弾に裏打ちされた物量戦を行う
それは、10年前に旧軍から武器を多く接収しており、所属しているゲリラの中にもその系譜を継ぐものが数多くいるからだ
そのため、迫撃砲によって、前方数キロに対して準備砲撃を行った後、前進するという第一次世界大戦的な戦闘を行っていた
マサムネ 「これでいいんだな?」
山の麓に隠れ、眼下に広がる燃えた街を眺めながら、これで7度目になる質問をコダイに投げかける
コダイ 「ええ。これで構いません。我々が、アクロポリス外縁を十分に荒らし周り、敵の本隊をおびき出し、それを救援に来たB地区ゲリラが撃滅する…こういう手筈になっています」
マサムネ 「ふむ…それならいいんだが」
正直、この戦闘は気が進まない
何故なら、『確実に勝てる戦闘』ではないからだ
D地区のゲリラがいくら強力と雖も、敵軍を総動員されれば、流石に勝ち目がない
それを『テセラ君』というイレギュラーによって補完しようとしているのだから、不安しか無いのは当然であろう
(ダダダダッ…!)
「うわっ…!」
突如として、頭上から弾丸が降り注ぐ
コダイ 「機銃掃射か…!?」
頭を下げ、茂みに隠れながら上空を見渡す
マサムネ 「な…!?」
信じられないものを見た
天使族が、銃を持っていたのだ
我々は、彼女たちが剣と魔法でしか戦わない古代人だと思っていたが、その幻想は打ち砕かれた
コダイ 「頭領!ロケットランチャーが飛んできます!」
(ドォォォォォォンッ!)
土煙が舞う
これは、厳しい戦いになりそうだった