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五一話 『早朝』

テセラ 「すまない。実感が無いんだが」

ヤマト 「そうか…君自身も自覚が無いなら、どうしようもないな」

俺は、羽が生えていたと思しき背中部分をなぞってみるが何も違和感は無い

ただ、不健康に浮き出た肩甲骨がそこにあるだけだった

    「どうだ、テセラ。立てるか?」

    「身体に異常が無いなら、少し散歩でもしようか。ここにいても暇だろう」

テセラ 「あ、あぁ。そうだな」


………

……


部屋を後にする

ドアを開けると、長い廊下が広がっている

いや、廊下と言うのもおこがましい

露出した電線に、無造作に取り付けられた電球、全面が土で覆われ、申し訳程度の木の柱

さながら、地下壕だ

テセラ 「ここは…どこだ?」

ヤマト 「『B地区発令所』…まあつまりは俺達ゲリラの拠点だ」

テセラ 「こんな施設があるなんて、知らなかった」

ヤマト 「それはそうだろう。ゲリラの施設をその辺の人間が知っていたら、それはゲリラではない」

テセラ 「違いない」

    「でも、何で今更になって俺に教えた?」

ヤマト 「それは君がゲリラだからだ」

テセラ 「は…?」

ヤマト 「ジロウから聞いたぞ。テセラ、君はゲリラに戻る決心をしたんだそうじゃないか」

テセラ 「いや、決心をした訳じゃ…」

ヤマト 「じゃあ、これ以降我々に協力しないのか?昨日の参戦はただの気まぐれだったのか?」

テセラ 「…流石に片足突っ込んだからな。一段落するまでは協力する」

ヤマト 「だろう?じゃあ、君はゲリラだ」

テセラ 「…」

なんだか、うまく言いくるめられた気がするが仕方ない

実際、俺は死ぬ覚悟で戦闘に臨んだのだから…

それに、ヤマトのその満足気な表情を見ると反論する気も失せるのだった


………

……


廊下を歩いていると、ちらほらと他のゲリラとすれ違う

彼らは、ヤマトに対して敬礼を欠かさない

良く統率の取れた兵隊だ

だが、その隣を歩く俺に対しては怪訝な表情を隠さない

『羽つきだ』

『天使族』

『人間モドキ』

語彙が豊富な罵倒を、すれ違いざまに浴びせてくる

テセラ 「…」

まあ、仕方のないことだろう

俺自身も、この力に関して一切の自覚を持ち合わせていないのだから


………

……


地上に出る

天気は晴れ。太陽が出始めた午前で、涼しい風が肌を冷やした

ナデシコ 「テセラちゃん。大丈夫!?身体の調子は悪くない?」

地上には、何故かナデシコが待ち構えており、俺の身体を撫で回した

テセラ 「ちょっ…こら!」

ヤマト 「見張りを頼んですまなかった」

ナデシコ 「ううん!全然大丈夫!」

     「というか、2人揃ってどこに行くの?デート?」

ヤマト 「あー…まぁそんなところだ」

    「どうだ?ナデシコも一緒に」

ナデシコ 「全然いいよ!」


………

……


3人で市街地に向かう

ナデシコ 「…今日の街は少し変なの。皆、イライラしてる」

突然、ナデシコがそう呟くように言う

テセラ 「変…?」

ナデシコ 「なんかね、今日は配給が少なかったみたい」

     「だから、皆お腹が空いてるの」

ヤマト 「そう…か」

ヤマトが、言葉に詰まる

どうやら、心当たりがあるみたいだ


………

……


B地区の中央広場に到着する

…確かに、ナデシコの言う通り違和感があった

普段は閑散としている広場だが、今日は何故人が集まり、やんややんやと騒いでいる

そして、その騒ぎ方も享楽に溺れた感覚ではなく、もっと…残酷な雰囲気に包まれていた

聞き耳を立てると分かる

彼らは確かにこう言っていた

『ゲリラを殺せ』と

中央広場のさらに中央

そこには、まるで見世物のように、腕を縛られた若い男が吊るされたロープの正面に立っていた

そう、今にも絞首刑が行われるかのように…

ヤマト 「…っ!彼は…!」

ヤマトが目を見開き、人波を押しのけるように凝視する

テセラ 「お、おい。知ってる人間なのか?」

ヤマト 「…あぁ、彼は俺の部下だ。何故、あんな所に」

俺達がたたらを踏んでいる間にも、若い男は自ら首にロープを括りつける

そこには抵抗の意志は見られない

仮に抵抗したとしても、後方にいる鈍器をもった男たちがそれを看過するはずは無いが

    「やめっ…やめろ!」

『ワァァァァァッ!』

ヤマトの叫び声虚しく、彼が自ら命を断った時、歓声が一斉に広がった

ナデシコ 「ひ、ひどい…」

ヤマト 「愚かな…」

悲しみに暮れる中、どこからかひらひらと1枚の紙が降ってくる

それは今日の朝刊だった

『ゲリラ、B地区集積所奇襲。食糧の多くが燃え、B地区で配給難か』

テセラ 「…なるほど」

ヤマト 「…大衆は愚かだ。そうやって、短絡的な目線でしか物事を考えられない」

    「彼らは、少しでも不利益を与える存在が居れば、すぐに敵とみなし攻撃する」

    「それが、幾重にも考え抜かれ、いずれは自分たちの利益になることも知らずに」

あのゲリラの襲撃は確かに、集積所の多くを破壊し、食糧を燃やした結果となった

だが、軽装備しか持っていない俺達ゲリラは建物ごと破壊することは困難で、ほとんどの被害は天使族によるものだろう

しかし、天使族の中央はこれを機に、ゲリラに対する敵愾心を植え付け、互いに争わせようとしている

見事な『分割統治』のやり方だ

そして、中央広場の彼は、それの第一人目の犠牲者となってしまったのだ

    「不愉快だ。帰るぞ」

ナデシコ 「ちょっと!リーダー待ってよ!」

そう言い捨て、ヤマトは足早にその場を去る

テセラ 「…」

これから先、ゲリラはどうなってしまうのだろう

大衆は確かに愚かだ

だが、愚かな大衆の民意というのは決して無下には出来ない

果たして、大衆から支持を失ったゲリラに何の正義があると言うのだろうか

それは、少人数集団の自己満足でしかないと俺は思うのだ

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