四五話 『夢』
夢を見ていた
それは今から10年前くらいに遡るだろうか
ヤマト…俺は、とある孤児院にいた
その孤児院には人の温かみと、俺の人生の全てがあった
だが、天使襲来の時。その全てが崩れさった
結束だと思われていた多くの友人達は、俺から愛想を尽かして去っていき、そればかりか親同然であった保母すらも姿をくらました
絶望した
初めての…初めての絶望だったかもしれない
だが、このことから、俺は一つの反省を得た
ヒトというのはどうにも薄情であるらしい…と
当たり前のことだが、理性的にも本能的にも自分の生存が一番と考える
だから、仁や徳というのは、髪の毛の断面ほどの薄っぺらさしかありはしないのだ
………
……
…
テセラ 「やめて…!まだ、まだ私は死にたくないの!」
彼女の声が聞こえる
その時俺は、初めてヒトならざるものを見た
彼女の上にまたがり、美しい姿勢で剣を構えていた姿を
ヒトの姿をしているのにも関わらず、その姿、内面から滲み出る異物の感覚は俺に深い羨望と嫉妬心を与えた
俺も…俺もヒトならざるものになりたい
そんな場違いな感覚を覚えた
………
……
…
鳥(天使族) 「ブネウ(気息)!!!」
ヤマト 「うわッ!」
壁に叩きつけられる
全身を強打し、感覚神経がひっきりなしに脳に苦痛を送っている
ナデシコは気を失ったらしいが、俺は途切れることなく、自分の目を鳥に捉えていた
…死ぬのは怖いが、怖くない
結局の所、人間のその醜さによって殺されるか、野犬に噛まれて死ぬか、それくらいの違いしかない
だが、2つの死に際を自分で選べるとしたら、俺は後者を選ぶだろう
それが『尊厳』ある死に方だと信じてやまない
鳥 「随分と苦労をかけてくれたようだ」
「お前らには最大限の苦痛を受けながら、死んでもらおうか」
「そうだな…まずは、女王陛下がお作りになった私の身体に、傷を入れたお前だ」
テセラに急速に興味を無くした鳥は、俺の方へ近づいてゆく
(もはやこれまでか…)
死を悟り、ゆっくりと目を閉じる
その刹那…
テセラ 「うっ、うぅ…」
鳥 「煩いぞ…やはりお前から殺してやろうか」
突然、テセラが呻き、暴れ始める
言葉では表現出来ないが、今にも何かが『発現』しそうな勢いであった
テセラ 「うっ…うわァァァァァ!!!」
眩しい光が辺りを包む
鳥 「くっ…眩しい」
誰も彼もが、テセラから目を背ける
その光が収まり、目を開いた瞬間、誰もがゾッとしただろう
羽だ、羽がテセラから生えていた
「羽…だと?」
ヤマト 「テセラ…なぜ君が…」
しかしその羽は、我々が考える羽とは大きく異なった
羽根毛どころか、肉すらついておらず、骨で構成された骨格のみ
さらに左右非対称で、まるで無作為に伸びる茎のような姿をしていた
だが、その不格好で不愉快な姿は、神話で見た如何なる天使よりも美しく、圧倒的に感じられる
テセラ 「…」
おもむろに立ち上がり、鳥を見つめた
鳥 「お、お前!何者だ!」
テセラ 「…」
彼女は答えない
鳥 「答えないのならば…お前を敵とみなす
…!」
「死ね!」
剣を構え直し、彼女に斬撃を与える
テセラ 「…」
『ガキンッ!』
だが、テセラはその剣を片手で掴んで見せる
掌からは血が流れ出たが、それだけだった
『バキンッ!』
そして、手に力を入れたかと思うと、まるで薄氷を砕くかのように剣が砕ける
鳥 「馬鹿な…私の剣が…」
狼狽したのか、テセラから少しずつ離れた
この姿は、鳥が我々に見せた初めての動揺だったかもしれない
ゲリラ 「いたぞ!生存者だ!」
「奴らに襲われている!」
鳥 「!?」
遠巻きから、くぐもった声が聞こえる
一連の顛末の集中していたせいか、周囲を顧みなかったらしい
気づけば俺達はゲリラに包囲されていた
鳥もそのことに気づいたのか、辺りを確認する
「お前ら…運が良かったな」
「今回は見逃してやる」
そう言うや否や、羽をはためかせ空に還ってゆく
そして、テセラはそれに合わせるかのように、再び倒れ込んだ
背中の羽は、やはり植物のように『枯れて』いき、砂と化す
幸運か、不幸か、ゲリラは、向こうの鳥の追撃に必死で、テセラの姿を確認したものはいなかった
(テセラ…君は一体)
これを知る者は、俺だけであった




