四ニ話 『反撃!(1/4)』
天使族 「ふう…今日は一段と寒いな」
B地区集積所の中心に、監視するようにそびえ立つ、一棟の物見やぐら
集積所の建物ばかりか、河の向こう側の人間居住区もはっきりとその姿が確認出来た
ここの建物の用途というのは多岐に渡る
買い取った奴隷が逃走しないために監視するのは勿論、外敵の侵入を防ぐための一瞬の抑止力とも期待されている
だが、今日は生憎の大雨。遠くには靄のようなものが微かに霞み、朧げの姿を維持していた
「…ん?」
港方面が騒がしい
じっと目を凝らしてみると、エピスミアがまた何かトラブルを起こしているようであった
「勘弁してくれ…エピスミア様」
エピスミアの部下に配属されるのは、かなりの恐怖である
いつ何時、彼女の気分で斬られるかたまったものではない
そう、人間の俗語で例えるならば、「ぶらっく」が正しいだろうか
早く内地のアクロポリス勤務に成りたいと、やぐらの天使族は心から思った
………
……
…
積荷の揚陸作業が終わり、奴隷と他の同僚たちは引き上げていった
やぐらの天使族 「さて、私も遅番と交代の時間だな」
日暮れはとうに過ぎ、五月雨のような雨が彼女を打ち付けるのみであった
こんな不安定な天気に少し鼻白みつつ、撤収の準備をする
その作業中…
不意に、雨雲の一部が避けていき、月が地上を照らす
「おや?月が…」
きらきらとしてその煌めきは大河を照らし、屈折した光の反射を彼女の眼光に届ける
「…!?」
しかし、その屈折には違和感がある
やぐらの手すりに乗り出し、その違和感を確認する
大河には複数の影が出来ていた
それも魚のような小さな影ではなく、比較的大きな影
さらに、その影は2、3ではない
500は下らない、大群であった
「なんだ…これは…」
彼女が狼狽している内にも、影の一部は港に上陸し、その姿を表す
…月夜に照らされてくれたおかげでその姿が良く確認出来た
ほとんどの衣類を黒で包み、顔すらも目元しか分からない
背中から羽は生えておらず、その代わりに無機的なまでの鉄の筒を携帯している
(バシュン!)
「…!?」
頬に掠めるように、何かが通り過ぎる
掠めた頬を拭ってみると「紫」色の血がぼたぼたと垂れた
「火薬の…匂い」
間違いない。ゲリラだった
………
……
…
その報は、瞬時にアクロポリスに届けられた
シィネ 「何!?ゲリラの襲撃だと?」
伝令兵 「はい。数は500以上。戦闘にも手慣れている熟練の兵士が投入されているようです」
「現在、B地区の集積所が攻撃に晒されており、エピスミア様が救援を要求しています」
シィネ 「なんてことだ…」
頭を抱える
不完全ながら、一度はゲリラを滅ぼしたつもりであったのにも関わらず、兵を500も揃えられるゲリラの動員力や、それを抑止出来なかった自分に絶望する
「味方の現地兵はいかほどだ?」
伝令兵 「確か…40、50ほどだったかと」
シィネ 「その数だと危険だ。直ぐに兵を動員する」
…あの集積所には今、西の彼方から運ばれてきた財宝が多量に保管されている
それがゲリラに奪われるとなると、財政的に打撃を与えるし、なにより女王陛下の顔を泥を塗りかねなかった
それは、なんとしてでも阻止しなければならない
伝令兵 「しかし、テペリア総督は…未だに…」
シィネ 「ああ、分かっている」
天使族の世界では、上からの命令が絶対である
それを背くとなると、上司からの信頼は元より、『階層構造』を一から作り出した女王陛下を裏切ることになる
だから、自分の裁量以外の事は絶対に出来ないことであった
「治安維持部隊は、今は使えない」
「だから、有志を招集して、B地区の救援を行う」
「総司令官は私だ。全ての責任は私が取る」