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三九話 『兆候』

あの折檻から一日の休憩を経た後、私は休日を返上し、時間さえあれば公務に勤しんだ

テペリア総督によって、実務業務から外された以上、煩雑な書類整理のみしかやることは無かったが、何もせず朽ちるよりも何倍もマシだ

シィネ 「ふう…」

私は火照った顔を冷たい布で拭う

ドアとカーテンを閉め切り、灯籠で辺りを照らしていた執務室は熱気が籠り、非常に暑い

ダラダラと汗が止まらなかった

    「よし、次の案件は…」

だが、手を止める訳には行かない

それはテペリア総督にもう一度認めて貰おうだとか、副総督の座を守ろうだとかそんな陳腐な思想ではない

ここで折れてしまったら、これまで私が積み上げてきたもの全てを自分で破壊してしまう。そんな感覚がしたからだ

要は…意地とプライドだった

     「…ん?」

作業の途中、思わず手を止めて、古代表音文字で書かれた1枚の報告書を凝視する

まるで組み立てライン工場のように機械的に処理していた書類群の中で、一つ異質でかつ、緊急を要する案件があることに気づく

    「『B地区に居住する人間族の大規模移動について』…だと?」

内容として、『夕方から朝方にかけて、アクロポリスとB地区を繋ぐ大運河に沿うように、多数の人間が北上をした』というものであった

だが、この報告書ではその現象を確認したのみで、人間側の意図もわからず、組織的な行動か、一種のパニック的行動すらも読み解くことが出来ない

恐らく、報告者はたまたまこの現象を確認したのみで、権限ある者に指示を仰ごうとしたのだろう

実際、この書類は今日の午前中に提出されたものであったことが確認出来る

そして、この場合の『権限ある者』とは治安維持部隊を指揮できるテペリア総督ただ一人であった

    「テペリア総督は何をしているんだ…こんなの非常自体に決まっているじゃないか」

基本的に人間居住区は、天使族の監視があるために下手なことはし辛い

なぜなら、反乱の兆しがあればすぐに鎮圧に動くからだ

だが、これらのリスクを握り潰してまで、人間族が、異質な行動を取るということは、天使族に『不利益』を与える可能性が非常に高い

私はいても立ってもいられず、部屋を飛び出す

執務室を一歩出ると、薄暗く、もの寂しい回廊にぶつかる

元々寒かったであろう廊下は、火照った身体にかなり滲みるものがあった

    「寒いな」


………

……


衛兵C 「いけません。副総督と雖も、そればかりは…」

案の定と言うべきか、テペリア総督はあの書類を見てすらいなかった

そればかりか、私が接触することさえ叶わない

なぜなら、彼女は今日の朝方まで重鎮たちと宴を開いていたらしく、就寝しているとのこと

そのため、衛兵たちにも『何者も立ち入らせるな』と厳命していたようだ

衛兵D 「恐らく、2、3時間後にはテペリア総督は起きられますので、その機会に出直してみては如何でしょうか」

シィネ 「それでは遅いのだ!今にも、人間らは反乱を起こそうとしている!」

    「後手後手では双方共に被害が増える一方だ!」

私は既に実行部隊の指揮権を外された立場

テペリアの許可が無ければ、ゲリラは討伐することは出来ない

衛兵C 「そう言われましても…」

だが、ここに立つ衛兵たちは事の重大さすら気づいていない

誰も彼も、私を鬱陶しそうな視線を送る

シィネ 「クソッ…」

外の様子を確認すると、太陽が今にも沈みそうな、赤焼けの不安定な空

人間たちが移動を始めた時から、実に24時間が経過しようとしていた

(…大事にならなければいいが)

打つ手が無い以上、そう祈る他ない

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