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三八話 『偵察(2/2)』

B地区には一つの大河がある

その大河は、この地域を縦断するように流れ、アクロポリスに繋がる

他の地区も同様で、上空から見ればアクロポリスを中心に放射状に川が伸びているのを確認出来るだろう

だが、これらの川は自然に出来たものではなかった

既存のアスファルトとコンクリートを掘り返し、人為的に作ったものであった

これらを指導したのは、ほかならぬテペリア総督

大量の奴隷人間を動員させ、人海戦術でわずか半年で完成させたのだ

しかし、その対価は大きく、数十万単位で人間が亡くなったらしい

その理由は単純明快で、不衛生な生活や栄養失調、水分不足と言った人間の限界を超える労働したからに他ならない

それらの遺体は、正しく処理されることはなく、今でも川底に沈んでいるという

そこから、慣例のように死体はこの川に遺棄され、世間では『墓場の中の墓場(the graveyard of graveyard)』なんて、不名誉な俗称で呼ばれる

対象的に、この川は物流の中心でもある

郊外の耕作地帯から、毎日のように大量の物資が送られる

勿論、この物流を管理してるのは天使族だし、物資のほとんどもアクロポリスに送られるが、それでも我々人間が恩恵を受けていることは間違いないだろう

そして、我々はこの運河に沿うように、歩いていた

テセラ 「おーい、どこまで行くんだ?」

ヤマト 「もう少しだ。辛抱してくれ」

周囲には人の気配どころか、明かりすらない

街灯はちらほらと存在しているが、そのほとんどは真ん中から折れているか、電球が切れていて使い物にならない

そのため、こんな夜道には夜目か、ランタンを頼りに移動するしか無かった

テセラ 「…何度も言うようだけど、俺よりも強い奴なんて他にいるだろ?」

    「なんでわざわざ俺を護衛として雇う」

ヤマト 「元より、君の腕は期待してない」

    「こんな夜中に、しかも人通りの少ない所で危険があるとは思えんからな」

    「でも、一人で偵察というのも少々しょっぱいだろう?」

    「護衛というのは建前で、世間話の相手が欲しかったのだよ」

テセラ 「ふーん…世間話ねぇ…」

    「そこまで言うってことは随分面白い話を仕入れたんだろうな」

ヤマト 「面白いかどうかは置いておくとしても、聞いてくれ」

    「…この地域に国があった頃。『ホケン』というシステムがあったそうだ」

テセラ 「どうしたいきなり?まさか、有り難い昔話でも聞かせてくれるのか?」

ヤマト 「最後まで聞け」

テセラ 「…」

ヤマト 「ホケン…保険制度というのは、テセラも知っていると思うが、事前に金を企業に払うことによって、有事の際に相応の金額が引き渡されるというビジネス形態の一種だ」

    「まあ、端的に言えば、自己を守るための投資と言い換えても良いだろう」

テセラ 「…?それがどうした」

ヤマト 「その当時、多くの人間が様々な保険に入っていたそうだ」

    「そして、その行動は後世の我々から見れば賢明なものに見えるだろう」

    「当たり前だろう?何事にも、タダでは自分を守れないことを、我々は嫌というほど知っているからな」

テセラ 「…」

ヤマトは話の核心を敢えて触れないように、外堀をなぞる形で会話を進める

駆け引きなどが苦手な俺としては、かなり気持ちの悪いものに感じられた

ヤマト 「しかし、この話が人類、世界規模になってくると話が違ってくる」

    「例えば、天使族が到来するずっと前から、世界の国々は、資源や肥沃な農地を巡って戦争を繰り返していたそうではないか」

    「今の我々から見ればそれは滑稽に見える。少しでも互いに譲歩すれば、より多くの者たちが豊かになるというのに」

テセラ 「…なるほど」

ヤマトが述べたこの二つの事象は、関係が無いように思われるが本質は同じだ

つまり、『長期的な利益を取るか』、『目先の利益を取るか』という命題に他ならない

前者ならば、保険制度。後者ならば、資源をめぐる戦争がそれに当たるだろう

ヤマト 「では、何故世界の国々はこんなにも愚かな選択をしたと思う?」

テセラ 「…知らないな」

ヤマト 「それはな、支払われる対価があまりにも大きかったからだよ」

    「資源を他国にくれてやることは簡単だ。だが、それによる経済損失は計り知れない。だから、長期的には無駄だと知っているのにも関わらず無謀な戦争を起こすのだ」

    「今の人類の体たらくと、堕落もそれで説明出来る」

    「いつでも、彼ら(天使族)は、前者を選び、人類は後者を選んできた」

    「だから…」

    「いや、また後でにしようか。この話は」

不意にヤマトが立ち止まる

テセラ 「お、おい。どうした?」

そして、川の向こう側にある一点を眺めている

ヤマト 「どうやら、着いたみたいだ」

ヤマトは、携帯していたバックから双眼鏡とノートを取り出し、一心にメモを取り始める

俺もそれに釣られて、同じ方向を向く

テセラ 「こ、これは…」

巨大な建物であった

いや、建物と言うには少々無機質か

例えるならば、集積所に近い

この集積所は、運河の直ぐ近くに建てられており、一種の港湾施設のようにも見える

よく目を凝らしてみると、この建物を囲むように流れている川には、大量の物資を積んだ船が所狭しと浮かんでおり、天使族と、鎖に繋がれた人間がそれらの揚陸作業をしている

    「驚いた…これは?」

ヤマト 「君の想像通りだと思う」

    「この施設は、最近出来たB地区の物資集積所だ」

    「農地から運ばれてくる物資の一部は、この建物に一度集積され、検品を受けた後にアクロポリスへ運ばれていく」

    「素晴らしい流通システムだ」

テセラ 「…ここを調べてどうするんだ?」

一見すると、天使族の数は多い

ここを落とすのはかなり至難の業ではないだろうか?

ヤマト 「勿論、ここを襲撃するための下準備だ」

テセラ 「…は?」

ヤマト 「近いうち、この場所に金銀財宝が西の彼方から運ばれてくるらしい」

    「我々は、それらを奪取し、資金を獲得する」


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