三ニ話 『交錯』
テセラ 「はぁ…はぁ…」
どんなに俺が個人的に何かを悩もうと、明日はやってくる
そして、労働を対価にしなければ、食糧は得られない
だから、俺はどんなに抵抗がある仕事だろうと、やり続けなればならないのだ
それも、家族一人を養うのならば、それを食べさせるための「義務」が発生する
それは、過去にこの地域にあった国の憲法にも明記されていた
当然、これら全てを愚直に守る馬鹿は誰もいないが、その当時に生きていた人々の倫理観に刻みつけられているはずだ
だからだろうか、この街では無秩序な殺しや強盗、性犯罪が横行しているが、進んで子供を害する大人は少ない
あたかもそれが不文律かのような…
「やばい…また遅くなっちまった」
「ゼオに怒られる…」
時折聞こえる嬌声や呻き声を聞きながら、暗い道を走る
当然、目的地は家
だが、地面に広がっている汚泥が俺の進行を邪魔し、思うように体が動かない
「くそ…」
諦めて脚速を緩める
許してくれゼオ。夕飯は遅くなりそうだ
………
……
…
空を眺めながら、とぼとぼと歩く
奴らにこの地を支配されてから早10年、俺は毎日のように夜空を見てきた
そして、この10年の間に夜空は段々と変化してきたと言ってもいい
それは、星の輝きである
孤児院時代では、周囲を住宅地に囲まれ、街灯が絶え間なく街を照らしていた
そのため、星を見ることはあっても、一等星以上ではないと確認が困難であった
だが、奴らによって街が破壊され、電気による『灯り』が消えて以来、夜空はより美しく、綺麗に感じられる
皮肉なものである
テセラ 「…?」
空を眺めていると、星の光を遮るような形で何かが頭上をかすめる
鳥…だろうか?
しかし違和感。鳥にしては体や羽が巨大な気がした
驚くべきことに、その何かは僅か十数メートル先で着地した
いや、着地というのは表現として正しくない
まさに、『墜落』だった
慌てて駆け寄る
「こ、これは…」
??? 「ぐっ…うぁ…」
案の定というべきか、墜落したのは天使族であった
彼ら特有の『紫色』の血を、右肩あたりから溢れんばかりに流し、その勢いは止まることは無い
(チャンスか…?)
腰に隠し持っているナイフを取り出す
天使族は、人類の敵
ゲリラを抜けた今だろうがそれは変わらない
そして、目の前には瀕死状態の無抵抗な敵、並の人間ならばやることを決まっていた
「…っ」
首筋に刃を突き立てる
だが、確認しなければ良かったものを、首に掛けられていた奴のペンダントを確認してしまった
「副総督だ…と?」
ゲリラでは恐れなかった者は居ない、銀色の紋章
『副総督』の称号であった
思わず、ナイフを手から滑らしてしまう
もう一度拾おうとするが、手が震えてそれすらもままならない
既に殺意は収まり、小賢しい思考ばかりを考えてしまったのだ
彼女を捕えて人質にしてしまおうか、とか
追い剥ぎをして、金品だけ奪ってしまおうか、とか
このまま放置して死を祈ろうか、だとか。取り留めのない思考
そして、最終的に一つの結論に行き着いた
「よっと…」
背中に副総督をおぶり、家にまで連れて行く
俺は、奴に応急処置を施すことにした
そして恩を売り、あわよくば身辺の保証をしてもらうのだ
当然、ゲリラとして、誇り高き人間として、この行為は背信行為ではある
だが、私はもうゲリラでも無ければ、厳律な人間でもない
あくまでも、自分の信条と矛盾しない範囲ならば天使族と妥協することも厭わない人間なのだ
それも、俺だけでなく家族にも良い恩恵が受けられるのならば尚良い
俺は一生、妹の面倒を見る事はできない
だから、せめて安全が保証されるのを確認してから地獄に行きたいのだ
そのためならば、俺を地獄に落とそうとする悪魔とでも契約を結ぶだろう




