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二九話 『過去(終編3/3)』

戦場というのは往々にして、時間が全ての対局を決める

そして、比喩でも何でもなく、1分1秒を争うものであった

そのため、大抵の死にゆく者は、時間の使い方が甘かったり、無為な行動を行った結果と言えるだろう

そうでなくとも、相手によって遅延工作をされるだけでリスクは指数関数的に跳ね上がるのであった

天使族A 「くそ…くそ…!」

ゲリラが小賢しい真似をしてから、我々の戦局は不利になりつつある

敵の攻撃を躱しつつ、羽についた謎の液体を取ろうとするがなかなか取れない

無理に取り除こうとすると、羽ごと分離してしまい、そこから出血をするというジレンマに陥っていた

天使族B 「おい!まだ、飛べないのか!?」

遠くから、絶望感にも似た悲痛な叫びが聞こえる

私が無力化された今、ゲリラたちは、自分を無視するようにもう片方の同胞に集中砲火を浴びせている

それに合わせるように、同胞は空中を器用に飛びながら敢えて目立つようにしてくれている

    「ぐぁァァァァッ!」

しかし、流石に全てを捌き切ることは不可能だったらしい

銃弾の一片が同胞の羽に貫通する

そして、鮮やかな『紫』色の血を流し地面に墜落した

天使族A 「お、おい!」

すぐさま駆け寄り、かばうようにゲリラの前に立つ

   「『アミーナ(防御)』!!」 

防御魔法の展開

だが、この魔法はヘロインの如き応急処置的効果しか期待出来なかった

確かに、この魔法を展開している間はゲリラが持っている貧弱な武器程度ならば容易に弾くことが出来るし、敵性の科学反応を全て中和する能力を持っている

しかし、時効性の魔法のため、数分したら膜が解けてしまうし、使える回数にも限りがあった

天使族B 「おい…なんで私を助ける」

    「ここままじゃ…お前も死んでしまうぞ」

天使族A 「何を言う。私達は仲間だろう?」

    「生まれるときも、死ぬときも一緒だ」

天使族B 「ふふ、お前らしいな」

どこからともなく、私達は手を繋いだ

「『あれ』をするんだな?」

天使族A 「あぁ…『あれ』だ」

天使族ら 「「全ては女王陛下のために」」


………

……


ジロウ 「テセラさん、今回の任務はなんとか成功しそうですね」

テセラ 「あぁ、そうだな」

まるで弁慶の如く、列車を守る形で『奴ら』が佇んでいる

彼らは膜を展開し、未練がましくも時間稼ぎをしているようだ

それを我々は嫌というほど熟知しているため、攻撃の手を緩め傍観に徹している

    「…ん?」

その時、一瞬だけ、頬に何か熱いものがかすめた

いや、頬だけではない

体中の全てがビリビリと熱した金属を当てられているような感覚に苛まれる

横を見やると、ジロウも不思議そうな表情で肌を掻いていた

まさか…

『奴ら』を姿をもう一度確認すると、手を繋いだ状態でおもむろに2人が立ち上がる

そして、我々には解さない言語で詠唱を始めた

まさか…!まさか…!

テセラ 「おい皆!逃げろ!」

ジロウ 「あ、ちょっと!テセラさん!」

俺はジロウの手を引き、全力でその場から離れる

奴ら 「『アフト=カタストロフィー』」

『ドォォォォォォォン!』

その刹那、後ろから轟音と、地獄のような熱さが俺を襲う

テセラ 「く…っ!」

しかし、動けないというほどではない

俺は、ひたすら走り続けた


………

……


黒い雨が降っている

聞いたことはないだろうか?

大爆発の後は総じてこのような黒い雨が降ると

そして、この雨は蒸発しきった地上を再び冷やし、戦闘の後の余韻を残さない

だが、『奴ら』が起こした爆発はこのような雨では埋められないほどを結果を残した

まず、結論からして『奴ら』は死んだ

しかし、我々に大人しく頭を撃ち抜かれるのではなく、自らの魂を燃やし、全てを粉々にすることを選択した

彼らから発生した爆発によって、周囲の数十メートルに穴を開け、鎮座されていた列車は空気の塵となった

勿論、そこに閉じ込められていた人間は…言うまでもない

折角、多大な犠牲を払ってまで列車を脱線させ、奇襲を仕掛けたというのに全てが徒労に終わったのだ

そして、被害はそれだけではない

特別、『奴ら』に近かったゲリラの人間は爆発に巻き込まれ死亡

元々の戦死者と合わせ、合計7割強がこの戦闘によって命を散らした

なのにもかかわらず、収穫はゼロ

完敗と言う他無かった

ジロウ 「ゴホッ、ゴホッ、テ…テセラさン…」

    「イタい…イたい…よ…」

テセラ 「あーこらこら、喋るな」

ジロウに応急処置を施しついでに、適当に宥める

運が良いのか悪いのか分からないが、あの爆発によって発生した鉄の破片が、ジロウの下顎に突き刺さり、一時は意識不明になっていた

だが、胴体部は健康そのもので、破片も内蔵に影響を及ぼすものでは無かったために、命の別状は無かった

出血も頭部に傷が入った割には微量で、破片を抜き取り、傷口も塞いだので1ヶ月程度で回復するだろう

唯一の後遺症を挙げるならば、舌だった

突き刺ささった破片は舌をズタズタにし、かなりの部位が失われた

まあ…それでも、滑舌が少し悪くなるだけならば、死ぬよりもよっぽど幸運なことだろう

ヤマト 「どうだ?ジロウの様子は」

ナデシコ 「ジロウくん怪我したんだって?」

そこに、またもや見慣れた男女に話しかけられる

テセラ 「あぁ…ムカつくくらいに健康体だ」

…本人たちには恥ずかしくて言えないが、もう一つ目の幸運はやはり、彼らも生きていたことだろう

我々の関係を『幼馴染』なんていう陳腐な表現で括って良いのかどうかは分からないが、10年以上の付き合いがある人間を失うのは、必ず心に去来するものがあるはずだ

ナデシコ 「もう!テセラちゃん!そうやって、イヤミばっか言ってちゃダメだよ?」

     「本当は…嬉しかったんだよね?」

ヤマト 「なるほど…これが俗に言う『つんでれ』というやつか」

ジロウ 「(ウンウンウンウン)」

横を見ると、ジロウもしきりにこくこくと頷いている

テセラ 「バカが」

俺は逃げるようにその場から去った


………

……


俺は爆心地に近づくように歩く

他のゲリラは、生存者の確認や応急処置で忙しいために、実地調査を怠っていた

なので、散歩も兼ねて爆心地を一度確認することにする

…もしかしたら、他の生存者もいるかもしれないしな


………

……


テセラ 「…」

やはり、間近で見ると壮観である

爆心地には大きなクレータが出来ており、おおよそ硬そうな石までも容易に砕いてるのが確認できる

雨によって水に触れるたびに、じゅうという音を出し、湯気を放っている

そしてその周辺には完全に焼け焦げた列車の痕

中途半端に開いたドアからは、赤いドロドロとした肉塊のようなものが漏れ出ていた

おそらく『死体だったもの』だろうか?

…流石にそこまでは調べたくないな

俺は心の中で十字を切り、踵を返そうとするが…

一瞬、その中からもぞもぞと動くものを発見する

    「…!?」

もう一度を目を凝らして確かめる

…やはり、何か動いている!

俺はすぐさまそこに駆け寄り、異常なまでの臭気を無理やり押し込みながら、肉塊の中から『それ』を引きずり出す

?? 「う…んぅ…」

テセラ 「生きている…人間!?」

およそ、初等教育すらも受けていないだろう幼い年齢の人間だった

だが、この地域の人間には似つかわしくない、美しい金髪を持つ神秘的な少女であった

…外傷も見る限り確認出来ない

なぜ、どうやって、彼女が生きているのか検討も付かなかった

?? 「あ…っ」

薄目を開く

テセラ 「おい!大丈夫か!」

?? 「私は…我は誰?」

テセラ 「は…?何言ってるんだ」

   「そんなの俺が知りたいよ」

?? 「あ、分かった、わ、我は『ゼオ』。テセラの妹」

そう言って、俺の胸部を指差してくる

そこには、俺が『ゼオ』と名付けた人形が…


………

……


俺はこの日を以て、ゲリラを辞めた

理由は、『家族が出来た』からだった

やっと…過去編が終わった

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