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ニ六話 『過去(後編3/3)』

男 「もういい!お前を信用した俺がバカだった!出てく!」

ヤマト 「ちょっ…!待ってくれ…!」

孤児院からまた一人出ていった

ついに、ここに残ったのは私達3人だけになってしまう

寮母が孤児院から去って、早2週間

やはり彼らは帰って来ない

失望した孤児院の人間は早々に見切りを付け、足早にここを去っていった

そして、それはヤマトやナデシコの信頼と反比例的に発生し、二人に愛想を尽かした人間からここを去るという分かりやすい構図になっている

ヤマト 「はぁ…これからどうしたものか」

ナデシコ 「もう…誰もいないね」

ふぅ、とため息をつく

空中に留まった埃がくるくると舞う

2週間前よりも、さらにその濃度が濃くなった気がする

ヤマト 「テセラ、君はどうするんだ?やはり、君も出ていってしまうのか?」

食堂に居座り、テレビから流れるニュースを肴に、図書室から持ち込んだ大量の書物に耽っていた私に、二人が話しかけてくる

テセラ 「…ん、私は残るよ」

既に戦線は北上し始め、避難命令もこの街に発令されていた

その証拠に、空ではミサイルの痕と思われる一直線の雲が流れ、地上では轟音と爆発音が遠巻きながらも時折響いている

だが、私は逃げる気にはなれなかった

今更逃げた所で私は何をするのだろうか

そんなに血眼になってまで守る命に何の価値があるのだろうか

それならば、生まれ育ったこの建物で最期を過ごすというのが、最も『尊厳』のある生き方である筈だ

少なくとも私はそう思っている

だから、私は逃げない

ヤマト 「そうか、俺達も残るつもりだ」

    「流石にナデシコと二人じゃ心細いからな」

テセラ 「…もう少しでここも戦場になる」

    「死にたくないなら、早くここから逃げた方がいいよ」

そう言って、テレビに顎を向ける

ブラウン管からは、戦闘の場面や情報がひっきりなしに伝わっていた

だが、時折入る砂嵐のノイズは、既に首都圏も安全ではないことを示している

もう…この国のいかなる場所も安全ではないのだ

ヤマト 「それは出来ない。俺達には、おばさんたちを待つ義務がある。彼女らが帰ってきて次第逃げ出すつもりだ」

    「何故君が逃げないのか敢えて聞きはしないが、テセラもその時は…一緒に逃げよう」

テセラ 「…まだそんなこと言ってるの?」

ヤマトと言い、ナデシコと言い、なぜこんなにも頓珍漢なことを言えるのだろうか

もう、彼女らは帰ってこない

私達を捨てて逃げ出したのは確実なのに…

だが、この二人はそうは思っていないらしい

意地になって、希望の欠片もない可能性に掛けているわけでもなく、私のように破滅的思想に染まってもいない

ただ…本当に、この二人は寮母たちが『帰ってくる』と信じて疑わないのだ

性善説というのも、ここまで来ると滑稽なように思えてくるが、逆にその実直さは私には眩しく写っている

ヤマト 「おばさんたちは戻ってくる…必ずな」

そう噛み締めるように言葉を紡ぐ

テセラ 「そう…」


………

……


それから何時間が経っただろうか?

突然、ここら一帯が停電に見舞われる

この街の郊外に変電所があると聞くし、そこらを攻撃されたのだろうか

『暗くて本を読むのが大変になったな』などと呑気な感想を抱いていると、突然玄関のドアが開く音が聞こえた

ズルッ…ズルリ…

何か、引きずるような音

テセラ 「もしかして…おばさんたちが帰ってきたの?」

私は、少しの高揚感と期待感を胸に玄関に向かう

生憎、他の2人は仮眠を取っているし、今から起こすのも億劫だ

もしも、この来客が私達を迎えに来るものならば…少しは人を信用してもいいのかもしれない。そう思って玄関に向かったのに…

   「誰…アナタ」

そんな安易な妄想は尽く砕かれる

目の隠れた長い髪に、今には似つかわしくない格好、そして返り血を浴び真っ赤に染まった白い羽

そして、彼女のそのにやけた笑みからは、異常なまでに整った白い歯が見え隠れする

   「…ひッ!」

そして、彼女の手に持っているものに気づいてゾッとする

右手には、人の手が加えられたとは思えない不思議な色の剣、片方の手には数時間前に逃げた孤児院の男の生首が掲げられていた

鳥?「いた…!まだ生き残っている人間が…!」

彼女は、生首を無造作に地面に放つと私に対峙する

本能的な恐怖が私の身を包む

テセラ 「だ、誰なの…アナタ、『鳥』なの?」

震えているせいか、もう逃げるほど足は使い物にならない

ひゅうというかすれ声とともに、辛うじてセリフを放つ

鳥? 「…巷では、そんな風に呼ばれているらしいな」

   「だがこんな話は、これから死ぬお前には詮なきことだ」  

髪を靡かせながら、億劫そうにそう答える

そこから覗いた目は、アメジストのような純度の高い紫色をしていた

…美しい色

そんな感想を抱いた刹那、私の体は地面に組み伏せられていた

彼女は剣を逆手に持ち、私の首筋に当てる

テセラ 「止めて…!まだ、まだ私は死にたくないの!」

ジタバタと暴れ、涙を流しながら命乞いをする

あぁ…なんて醜いんだろうか

破滅的思想を唱えながら、いざその時が来てみれば恐怖に打ち勝つことなんて出来なかった

怖い、あぁ、怖いよ

結局私という存在は異端などではなく、ただ単に大多数に迎合出来なかった非人格者なのだ

自分のみならず他者の不幸を望んではいたが、実際の所は羨み、彼らのような存在に成りたいと切望していただけ

決して、自分が不幸になりたいなどとは心の底では思ってはいなかったのだ

…あぁ、今になってそれが分かってしまった

本当に、なにもかも遅すぎる

ナデシコ 「テセラちゃんから離れて!」

その刹那、横合いから異物が彼女に投げつけられる

ナデシコ!起きていたのか!

鳥? 「…っ!」

刃物の軌道から逸れるように、私から離れていく

ヤマト 「おぉぉぉぉぉぉぉッ!」

そして、その修正軌道の先には…ヤマト!ヤマトがいた

鳥? 「ぐはッ!」

ぐちゃぁという生々しい音と共に、彼女の腹部から血が漏れ出す

   「小賢しい、おのれ…人間如きが」

包丁だった。彼女の腹部には抉る様に刃物が刺さっている

   「食らえ…」

   「『ブネウ(気息)』!!」

ヤマト 「うわッ」

彼女が何かを呟いたかと思うと、周囲に強風が発生する

私含め、周囲の人間はその強風により宙を舞い、壁に叩きつけられる

テセラ 「ガァッ!」

あぁ、これはいくつか骨折したな

体を起こそうとするが、びくともしない

それどころか、動かそうとするたびに激痛が私を襲った

残りの2人もそんな様子で、芋虫のように這っている

鳥? 「随分と苦労をかけてくれたようだ」

   「お前らには最大限の苦痛を受けながら、死んでもらおうか」

テセラ 「…っ!…っ!」

もはや激痛で声を発することも出来ない

顎がカチカチと動くだけだった


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