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ニ五話 『過去(後編2/3)』

孤児院の経営というのは、いわば慈善事業である

以前に寮母から聞いた話によると、私たちが暮らしているここは街の募金と自治体による交付金に成り立っているらしかった

しかし、このご時世である

戦争が逼迫しているこの情勢で、募金をするもの好きなどおらず、自治体の方も弱者切り捨てに舵を切りつつある

そして…首が回らなくなった寮母や、孤児院のオトナたちは、恐らく私達が外出している隙を見て、逃げ出したのだろう

しかし、彼らの考えも理解できなくは無かった

確かに寮母と私達には、十数年関わり合ってきた絆のようなものがあったし、身内と言っても差し支えなかった

だが、血も繋がっておらず、本質的には他人である

そして、彼らにも自分の生活があり、本当に持っている「家族」と私達のどっちを優先するかなど想像に容易いことだった

ナデシコ 「えっ…なに、これ」

ヤマト 「もぬけの殻じゃないか…」

後から追ってきた2人が、私と同じように部屋を確認し、絶句する

ナデシコ 「ねぇ、テセラちゃん、これなに!?」

テセラ 「ふふ…見ての通りだよ」

    「おばさんたちはね。私達の見捨てて、逃げ出したの」

ナデシコ 「え…そんな、そんなはずない!」

     「おばさんたちはそんなことするの人じゃないもん!」

ヤマト 「そうだ。それはテセラの勝手な推論だろう」

テセラ 「そうかもね…でも、分かるよ」

    「おばさんたちと同じ立場なら、私も同じこと、するよ」


………

……


ヤマトたちは、他の子供たちも孤児院に戻ってきたタイミングで現状を説明した

やはり、他の人間も逃げたとは思わないらしく、楽観的な雰囲気がその場に漂う

大方、荷物整理で一時的に部屋を空にしているのだろうという根拠のない願望

そもそも、私は彼らとほとんど関わってないし、ヤマトとナデシコが印象的な人間であるからかこの2人の意見に追従する者がほとんどを占めている

そうでなくとも、人間というのは、信じたくない情報に耳を塞ぎ、都合の良い情報を拾っていくとよく言ったものなのだ

いや、私が悲観的すぎるだけなのか…

どうであれ、時間がそれの是非を証明してくれるだろう


………

……


―2時間後―

既に夕食時を過ぎている

未だに寮母たちは一人として帰らない

この頃から、子供たちの間で不安感が蔓延するようになった

それと同時に、私の言ったことの信憑性が増大していく

だが、かくいう私は、部屋に篭り『妹』と過ごしていた

しかし、気分は芳しくない

先程、孤児院に帰った前後までは他人の不幸に味を噛み締めていたが、それさえも空虚に思えてくる

テセラ 「ねぇ、ゼオ。私はどうしたらいいのかな?」

そう言って、『人形』を両手で抱える

今、私の中に渦巻いてる感情は、自分でも形容不可能な怒り

そして、そのベクトルは寮母たちに向けられていた

つい、人形を抱きしめる力が強くなる

    「あっ…痛かったよね。ごめんね」


………

……

―さらに数時間―

ついに日を跨いでしまった

しかし、寮母たちは依然として帰ってくる気配はない

子供たちは空腹や、不安感からか、ナデシコやヤマトに攻撃的になる者も現れた

『何故、そんないい加減なことを言ったのか』

『おばさんたちは帰って来ないじゃないか』、と。

だが、これに関して言えば2人は悪くないだろう

彼らはあくまで自分の『感想』を言っただけで、何かソースを提示したわけでもない

それをあたかも事実と捉え、追従するのは勝手だが、それが外れた途端、他者を攻撃するのは違うと私は思う

でも、正しさがどうあれ子供たちの仲が次第に険悪になっていくのは止められない

2人が必死に宥めてはいるが、十数年の彼らの結びつきが緩くなり、崩れていく過程を見せられているようだ


………

……


―数日後―

数日経っても、寮母たちが帰ってくることは無かった

これにより、高確率で私の想像したことは事実ということが証明された

幸いにも電気・水道は健在で、多少の非常食が備蓄されていたために、しばらくは死ぬことはない

しかし、これら資源は有限ではないし、いつかは無くなってしまうだろう

だが、金銭がほとんどない私たちには『買う』という選択肢は与えられず、いつかは来る死の恐怖に辟易していた

そのためか、子供たちは次々と孤児院を飛び出し、街へ繰り出していった

テセラ 「…」

私は数時間ぶりに部屋から出て、食堂に向かう

机をなぞって見ると、指に白い異物が付着する

(少し埃っぽくなったか…)

食堂には、椅子に座り俯いているヤマトと、ナデシコ、そして数人

既に数える程にまで数を減らしていた

テレビからは、アニメやドラマなど呑気な番組を放送している局は皆無で、全てが一様にして『鳥』に関する情報を伝達していた

    「…ん?」

そして、赤文字でテロップが流れているのに気づく

『「鳥」九州南部に上陸。四国と中国地方全域に避難命令』

この街も戦場になる日は近かった

コメディー回もいつか作りたい

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