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二四話 『過去(後編1/3)』

テセラ 「ふふ…はは…っ!」

私はこの記事を読んだ時、笑いが止まらなかった

『南極入植』という人類のスバラシイ成果が、一瞬にして崩れ去った

南極に向かった人々はどう思うのだろうか?

自分たちが事故によって死にゆく時、何を思い、何を感じ、何に憤るのだろうか?

私は思う。結局は、一つの結論にたどり着くだろう

『自分は不幸である』と。

それは、私と同じ境遇に置かれるということ

そう思うと彼らに対し、哀れみよりも仲間意識のようなものが芽生えてくる

死んでくれてありがとう。不幸になってありがとう

そんな呪われた思考が、私の心の隙間を埋め、塗りつぶしてくる


………

……


事態は、そのまま悪化の一途を辿った

南極の事故は、南極だけで留まらず、南半球全域までに広がっていた

謎の『鳥』の大群が、各地の都市を攻撃し、瓦礫の山になるまですり潰したのだ

勿論、人類側は、この『鳥』に対しミサイルや、対空砲火、ドローン攻撃など高度に機械化された武器で反撃を試みたが、ほとんどは失敗に終わった

この時点で、有数の資源地帯であるオーストラリアが陥落したことを受け、国連はこの『鳥』の大群を『侵略的外来生物』と位置づける

そして、総力を持ってこれらを駆逐することとした


………

……


『ニューギニア島、ブラジルの南西部では依然として戦闘が続いており、多数の犠牲者が出ています』

『政府はこれを受け、自衛隊の海外派遣を決定、武力行使を容認する超法規的措置も検討しており…』

寮母 「最近は物騒なニュースが多いわね…」

テセラ 「…」

孤児院での夕食中、寮母がそんな不安感混じりの感想を抱く

しかし、実際のところ我々には『不安』以上の感想は抱けなかった

というのも、北半球に住んでいる我々にとって、南半球は3500km以上も先の話だし、我が身に何かが起こっているわけでもない

そうでなくとも、我々に何か出来ることもなく、詮なき話であった

ナデシコ 「ねぇ、おばさん」

出し抜けに、ナデシコが寮母に話しかえる

寮母 「ん?どうしたの?」

ナデシコ 「今日の夕ごはんってこれだけ?いつもより少ない気がするんだけど」

寮母 「あぁ、それはね…」

バツが悪そうに目を逸し、答えに窮す

   「最近、物価高騰がひどくてね。うまくやりくりしたんだけど、ご飯が少し減っちゃったみたい」

   「本当にごめんね?」

ナデシコ 「えぇー、残念!おばさんのご飯だけが毎日の楽しみだったのに!」

テセラ 「…なんだと?」

今の会話で分かってしまった

もうこの事件は、他人事なんかではない

間接的にも我々に悪影響を与えていたのだ

それを私達は、見てみぬふりをしていただけ

食堂から窓を眺める

空は赤黒く、太陽が沈んでいくのが感覚的に感じられる

いつもならば、美しいと感じられるその景色も、今は私の危機感を象徴しているようだった

私の…私達の戦争は、もうそこまで来ているのだ


………

……



20XX年6月22日 ニューギニア島陥落

20XX年7月18日 南アメリカ大陸全面降伏

20XX年8月11日 全世界で動員令が施行

市場経済の停止、物資の配給制が行われる

20XX年10月25日 アメリカ合衆国の南部が連合から離脱、『鳥』と単独講和


………

……


先生 「今日をもちまして我が校は、無期限の休校とします」

いつものようなHRで、先生が突然そんなことを発する

(ザワザワザワザワ)

当然、生徒の衝撃も大きかった

生徒 「先生!何故ですか?」

   「いきなり休校なんて言われても…俺達はどうすればいいんですか!?」

先生 「落ち着きなさい」

そう言って、今にも食いかかりそうな勢いの生徒を手で静止する

   「…君たちは、半年前に出現した『鳥』のことを知っているね?」

   「『鳥』は、既に赤道以南を占拠しており、一部地域では北半球も支配下に置いている」

   「これ以上の侵攻を阻止するために、我が国では、一定年齢の成人男性を徴兵することになったんだ」

   「だから、もはや学校組織は体を成さない」

   「勝手だと思うが、君たちを守るためなんだ。分かってくれ」

そう言って、深々の頭を垂れる

生徒たち 「「……」」

もはや、何か文句を言う者は誰も居なかった

それもそうだろう。彼は、教育者としての義務を死ぬまで果たそうとしているのだから

こんなにも模範的な教師像は他にも少ないはずだ

先生 「私は…必ず帰ってくる。それまで、君たちも生きていてくれ。約束だ」


………

……


テセラ・ナデシコ・ヤマト 「「……」」

同じ学校に進学した私達だったが、普段ならば、部活や、委員会などで一緒に帰ることも無かった

しかし、学校が早々に解散となった今日は例外で、共に孤児院に向かっている

ナデシコ 「ねぇ…これから私達はどうなるのかな?」

ヤマト 「…分からない」

テセラ 「…」

空気が重い

私達の状況を例えるならば、そう、触覚を失ったアリに似ている

学校という教育機関を経由し、社会に向かうためのレールが整えられていたはずが、突如としてそのレールが外され右往左往する

それは、何かしらのアイデンティティ喪失に似通ったものを感じた

今、彼らの心にあるのは『虚無感』や『喪失感』であろう

そして、そんな状況に際しても私は、薄暗い多幸感を感じていた

テセラ 「…でもナデシコ。アナタ、学校に行くのは嫌だって言ってたじゃない。良かったね」

ナデシコ 「それは…っ!学校の勉強は嫌いだけど、学校自体は好きだったし…」

段々と言葉尻が小さくなっていく

ヤマト 「テセラ、止めるんだ。あまりナデシコをいじめないでくれ」

テセラ 「…」


………

……


ナデシコ 「ただいまぁ!」

ヤマト 「ただいま戻りました」

テセラ 「…ただいま」

玄関から声をかけても返答は無い

他の子供たちはまだ帰っておらず、自ずと私達が先に帰って来たことを示唆している

     「やったぁ!一番乗りー!」

靴を脱いで上がり、共用部に移動する

見慣れ飽きた、不潔でも、清潔でもない部屋

テセラ 「ん?」

そこで私は、言葉では形容できないような引っ掛かりを覚える

あまりにも静か過ぎた

まるで、この建物から生活感が抜けたような…

ナデシコ「ねぇ、おばさんたちはどこにいるのかな?」

    「いつもならこの時間帯にはここにいるはずなのに」

ヤマト 「確かに、少し変だな。買い出しだろうか」

…まさか!

ナデシコ 「え?テセラちゃん!?」

ヤマト 「急にどうした?」

私は、ドタドタと寮母たちの部屋に向かう

そしてドアをこじ開け、中を確認する

(バタン!)

テセラ 「やっぱり…」

少し埃の舞ったがらんどうな部屋

寮母たちの私物は一切が運び出され、空き部屋の状態になっていた

(捨てられた…!)

私は直感的にそれを悟った

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