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ニ一話 『微睡み』

テセラ 「ただいまぁ…」

今日は、実に様々なことがあった

友人の死や、故人との再開、そして勧誘

人間には精神の『恒常性』があると良く言ったもので、今はさほど混乱することはなく、反動のように醒めているようにも感じる

それは、元々の俺の性質なのか

薄情なのかは良く分からない

ただ、一つ言えることは世の中には『恒常性』などはなく俺のしていることは問題の先送りと、忘却に過ぎなかった

ただ…今だけは、考える時間が欲しい

    「ゼオ、いるのか?」

リビングに向かうが、辺りは真っ暗で他の人間を認知することは出来ない

しかし、床に乱雑に置かれた彼女のお気に入りの人形と本が、先程まで生活をしていた形跡を残す

ゼオ 「…今日は遅かったな」

テセラ 「うわっ!」

デジャブである

彼女は、俺の背後に気配を殺すかのように佇んでいた

     「ゼオ、そうやって人の背後を取るのはやめろ」

ゼオ 「すまないな」

ちっとも申し訳なさそうな素振りを見せずに、そうぼやく

   「しかしテセラ。本当に待ちくたびれたぞ。腹が空きすぎて、備蓄食を食べてしまった」

テセラ 「それは構わないが…」

(きゅるるるる…)

ゼオ 「なんだテセラ。お前も飯を食べてないのか?」

   「こんなにも遅いから、外で済ませたものかと思っていた」

テセラ 「いや、まあ色々あってな」

適当に誤魔化す

世間話にしては内容が酷であるし、わざわざ言うこともあるまい

ゼオ 「そうか」

   「じゃあ、夕食はどうするんだ?」

   「もう備蓄食は大方食べてしまったぞ」

テセラ 「え?」

    「そんなの…」

    「あっ…」

『配給で貰った食べ物を食べればいい』と、続けようとしたが、手提げを持ってないことに気づく

今日、配給行くのを忘れてしまったのだ

   「…今日は抜きだな」

ため息混じりにそう答える

ゼオ 「…ひもじいものだ」

   「そういう日はさっさと寝るに限るぞ」

   「見るところによると何か考え事をしているらしいからな」

   「これ以上脳を酷使することもあるまい」

テセラ 「…そうだな」

妹は、このように人の考えを読み取るのに非常に敏感である

それは天性の才能なのか、育った境遇が彼女をそうしたのか

もしも、未だに人間優位の世界が存続していたならば、カウンセラーなどが務まりそうだなと勝手な印象を抱く

現実でもそういう職業があれば良いが、カウンセラー如き職業は、今の世の中では銅貨一枚の足しにもらない

圧倒的な『奴ら』の暴力による資源の不足が、そのような『贅沢な』職業を許さないのだ


………

……


適当に体を清めた後、そそくさと寝床に着く

テセラ 「疲れた…」

瞼が重い

目を瞑れば、ものの数分で眠りにつけるのではないだろうか

今日のことはまた明日、考えれば…

(コンコン)

不意に、ドアからノックの音がする

まあ、家内など妹しか居ないのでその正体は容易に予想出来たが

   「…どうぞ」

ゼオ 「入るぞ」

俺の部屋に入ってきたゼオは枕を胸の前で抱え、ズカズカとベットの半分を陣取る

その枕に挟まるように、人形がひょっこりと顔を出していた

  「我は今日、ここで寝るぞ」

出し抜けにそんなことを言う

テセラ 「またか」

ゼオ 「今日はテセラから『昔話』が聞きたくてな」

テセラ 「…?」

    「何が聞きたいんだ?ももたろう?うらしまたろう?かぐや姫か?」

ゼオ 「バカか、そうではない」

   「『雨』だったあの日。我と、お前が始めて会った時のことを知りたいのだ」

テセラ 「始めて…会った時…」

何故ゼオがいきなりそんなことを言い出すのか、とか、あの時のことを覚えていたのか、とか、疑問に思うことは沢山あったが、半分微睡みの中に意識が埋まっている俺にとってそんなのは関心の外であった

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