二十話 『邂逅(後編)』
テセラ 「ナデシコ、か?」
目元と額に広がる暖かで、柔らかい感触を感じながら答える
ナデシコ 「そう!当たり!」
振り返り顔を確認すると旧友と言うべきか、懐かしい笑みを浮かべた女が立っている
「久しぶりだね、テセラちゃん」
ジロウ 「俺モ、イるぞ…」
そのまた背後には対照的に見慣れた顔があった
テセラ 「なんでお前が…」
なんともまあ懐かしいメンツである
ヤマト、ナデシコ、ジロウ、そして俺ことテセラは5年前までは同じゲリラに所属し、志を同じくしていた
毎日昼夜問わず天使族に対してテロ行為を行い、人間に対する支配を妨害していたのは記憶に新しい
まあ、それが世界に与える影響などはたかが知れていたが
それでも、『天使族に抵抗している』という事実が俺達を結束させ、仲間意識を育てたのは言うまでもない
しかし、『雨の日』以来、俺はゲリラから抜け、このB地区に身を潜めるようになった
ジロウもその直後にゲリラを抜けらしいが、円満退職のようなもので一定のパイプをゲリラに持ったままカタギに降りていった
だが、その他の2人はジロウに聞くところによると今もゲリラを継続しているらしい
そしてその2人が俺達に接触したということは、『そういう要件』であることは確実であろう
ナデシコ 「いやー、それにしてもテセラちゃん、めっちゃ変わっててびっくりしたよ」
「ジロウくんとはちょくちょく会ってたけど君と会うのは5年ぶりだからね」
ヤマト 「確かにそうだ。5年前と比べてかなり大人びて見える」
テセラ 「なんだそれ…」
「自分ではそんな自覚ないんだがな」
ヤマト 「仕方ない。本人だとその成長が分かり辛いと言うからな」
テセラ 「そんなもんか」
ジロウ 「ソんなことより、早くテセラに要件ヲ言っテやれ」
会話を遮るようにジロウが、言葉を発する
煙草を蒸し、つまらなそうな様子である
ナデシコ 「いいじゃん!5年ぶりの感動の再開だよ?」
ジロウ 「…」
「…スゥー」
ガン無視である
まあ、ナデシコは気に障った様子は無かったが
ヤマト 「ははは…ジロウは昔から世間話が嫌いだったな」
「仕方ない。全員揃ったところだし、要件を言おうか」
テセラ 「…」
居住まいを正す
各々の視線が俺に集中している
ヤマト 「…A地区とC地区で大規模な武装蜂起が起きたのは知っているか?」
テセラ 「ああ、ジロウから聞いたよ」
ヤマト 「そうか。それなら話が早い」
「年々、天使族の人間に対する支配が苛烈になってきている。その結果、この支配体制に不満を持つ者が急激に増加しているのだ」
「具体的には散発的な暴動が起こったり、人間たちの間で社会不安が深刻化している」
テセラ 「なるほど」
ヤマト 「俺達ゲリラはその不満を利用し、制御して、ある一定のベクトルに導くという役割がある」
「これはテセラも知っているだろう」
テセラ 「つまり、A地区とC地区の武装蜂起を起こしたのはお前らなのか?」
ヤマト 「理解が早くて助かる」
「テセラの疑問に答えるならばyesだ。私達は以前までA地区やC地区に派遣され、武装蜂起を先導した」
「生憎、鎮圧されてしまったがな…」
少し皮肉めいた苦笑を浮かべる
「だから、『テペリア総督府領』でゲリラが比較的容易に活動できるのはもうB地区とD地区しか残っていない」
ナデシコ 「ねぇねぇ、『テペリア総督府領』ってなに?」
ジロウ 「お前、ゲリラじゃナいのカ…」
ナデシコ 「バカだから難しいことは分かんないです」
ジロウ 「…」
ヤマト 「『テペリア総督府領』というのは、A地区、B地区、C地区、D地区と、中央のアクロポリス、周辺の耕作地を合体させた行政区のことを言う」
「ここを統治する総督の名前が『テペリア』と言うらしいので、そう名付けられたらしい」
「ナデシコは置いておくにしても、テセラは知っていただろう?」
テセラ 「まあ、一応な」
「しかし、まだ『D地区』も生きていたのか」
ヤマト 「まだまだ『頭領』はご健在だ」
「これからも革命を各地に輸出するだろう」
「かく言う私達も、頭領の命令でB地区に派遣されたのだがな」
『テペリア総督府領』におけるゲリラの中心地はD地区と呼ばれている
ここの地域は昔から天使族に非協力的で、当局も手を焼いてると聞く
この地域の狡猾な所は、表では合法的な手段で天使族を妨害し、裏では各地にゲリラを派遣して暴力的な手段に訴えるというダブルスタンダードを行っているところだ
勿論その足跡はかき消され、決してD地区が関与していない形を取っている
そのために、天使族はこの地域に迂闊に手が出せないでいる
この綱渡り的な活動を行っているのが、ゲリラの長である『頭領』であり、その辣腕は老いに苦しめられても尚、健在なのだ
テセラ 「B地区でも武装蜂起を起こすつもりなのか…?」
ヤマト 「ああ、そうだ」
「A地区、C地区では失敗してしまったが、今度こそは…成功してみせる」
テセラ 「…そうか」
現実問題どうなんだろうか?
このヤマトという男は果たして武装蜂起を成功させる意思があるのだろうか
2度も失敗し、3度目は無いとは必ずしも言い切れない
何か革新的な発想があるのか、それとも…
ヤマト 「それでな、テセラ」
「お前に武装蜂起に参加してもらいたい」
「それが本題だ」
やはりか
『そういう要件』だとは思っていたが、いざ口に出して言われるとなかなか不快感がある
テセラ 「すまないが、俺はゲリラから足を洗った身だ」
「だから、その武装蜂起には参加出来ない」
そう言って、立ち上がる
ヤマト 「まあ待て、結論を急ぐな」
テセラ 「…」
再び腰を落ち着かせる
ヤマト 「5年前のあの日、確かにテセラがゲリラを抜けた手段には問題があった」
「しかし、お前の気持ちも十分分かっているつもりだ」
「俺達は別にあのことは気にしてない」
ナデシコ 「そうそう!」
ジロウ 「…」
外野がうるさい
テセラ 「それは良いとしても、俺が一人加わったことで何が出来るって言うんだよ」
「俺は傑出して強いということも無かっただろうに」
「それに、俺には『妹』がいる」
「彼女を置いて、まだ死ぬ訳にはいかない」
ヤマト 「妹…か」
ナデシコ 「テセラちゃん…」
ジロウ 「…」
生暖かな視線がこちらに向けられる
いや、生暖かというか、哀れみのような内なる冷たさがあるような眼差し
ジロウに関しては明確に敵意をこちらに向けてきている
正確には、俺ではなく俺の『向こう側』にいる人間か
とても気持ちの悪い感覚に襲われる
テセラ 「とにかく、この話は少し考えさせてくれ」
そう言って踵を返す
この不快感を悟られないように足早に去った
………
……
…
ナデシコ 「あーあ…」
「フラレちゃったね」
残された3人は、テセラの後ろ姿を見送りながら、各々物思いに耽っていた
ヤマト 「明確に拒否されなかったのが少しの救いだったな」
「まだゲリラに未練のようなものがあるのだろう」
「ジロウはどう思う?」
ジロウ 「…」
「…スゥー」
「世間的は好キではナイ」
ヤマト 「そうか」