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十九話 『邂逅(前編)』

力は拮抗している

この少年がライト級ボクサーだとすると、俺はミドル級ボクサーであった

その小柄の体格を生かし、器用に間合いを詰め、懐に入ろうとする

俺はそれを辛うじて受け止め、距離を一定に保つ

テセラ 「…っ」

少年 「…っ!死ね!」

両者視線を交える

彼の蒼く燃え盛る瞳には一切の妥協を感じられない

どちらかの心か刃が折れるまでこの状態が続くのだろうか…

若い男 「止めないか、二人とも」

そんな時、凛とした一節の制止が入る

テセラ 「…なんだ?」

    「…っ!」

声の発せられた方に視線を向けると、一人の男が立っていた

その姿は昔から見慣れていたもので…

若い男 「久しぶりだな。テセラ」

テセラ 「やっぱりお前だったか…ヤマト」

『雨の日の故人』。名前をヤマトという

5年来の再開であった


………

……


ヤマト 「さあ、好きな所に掛けてくれ」

テセラ 「あ、ああ…」

あの後、斬り合いは有耶無耶になった

あの少年の直近の上司がヤマトらしく、流石に上官の命令を無視出来なかったのか、刃を収めてくれた

そして、一つのバラック小屋に案内されて今に至る

ヤマト 「うちの部下が粗相をしてしまった様だ。彼に代わって今謝罪をする」

    「あの子にもキツく叱っておく」

そう言うと、頭を垂れる

テセラ 「止めてくれ、別に気にしていない」

     「どうせ俺はけじめすら付けれなかった『ゲリラ崩れだ』」

     「まともに死ねるなんて思ってない」

ヤマト 「そうか…」

    「それは、喜べばいいのか、悲しめばいいのか分からない返答だな」

そう言って彼は苦笑する

テセラ 「しかし、何で奴はいきなり俺を襲ってきたんだ?」 

    「お前なら理由を知ってるだろう?」

ヤマト 「…」

    「言葉で言うのは易いが、実際に見て貰った方が良い」

テセラ 「見る?」

ヤマト 「すまない、お茶を貰えるか?」

不意に遠くで佇んでいた例の少年に配膳を頼む

少年 「…」


………

……


少年 「持ってきた」

トレイにコーヒー豆とお湯を載せ、こちらに近づいてくる

テセラ 「…ん?」

しかし、何か様子がおかしい

彼は頑なに両手で持とうとせず、片手のせいかフラフラとしている

見ている方がヒヤヒヤとする姿である

ヤマト 「すまない、慣れないことをさせてしまって」

少年 「別に、気にしてない」

机に置いた後も、淹れる時には右手しか使わなかった

テセラ 「お前、なんで片手しか使わないんだ?」

    「面倒なら俺が準備するが…」

少年 「…」

少年は冷たくこちらを一瞥すると、おもむろに上着を脱ぎ捨てる

   「見ろ」

そこには、あるはずのものが…無かった

テセラ 「これは…驚いた」

からの左肩から下、さらに詳しく言えば左腕がすべて消失していた

少年 「俺は昔、裏切られた『ゲリラ崩れ』に左腕を切断された」

   「奴らは人間の未来など考えていない。自分さえ良ければ良いと思っている」

   「だから許さない、どうせお前もそうなんだろ?」

それは違う!とは言えなかった

実際俺は、ゲリラを害するつもりこそ毛頭無いが、個人的な事情で抜けたのは明らかだったからだ

テセラ 「お前も、苦労してたんだな」

だからだろうか、こんな無責任かつ月並みな返答しか出来なかった

少年 「…ちっ」

   「お前じゃない、俺にはナナシという名前がある」

そう捨て去ると、どこかに消えていった

ヤマト 「まあ、そういうことだ」

    「別に悪い奴ではないんだ。そこだけは信じてほしい」

テセラ 「だろうな、それは喋ってみて分かったよ」

    「だから…俺がナナシに斬られるのは、当然だったのかもな」

そんな乾いた笑みを浮かべた

ヤマト 「テセラ…」


………

……


テセラ 「それで?わざわざ俺を非難するために、ここまで来させたのか?」

そんな皮肉を込めて言う

ヤマト 「まさか。冗談を」

ヤマトは落ち着いた様子で、ナナシが淹れてくれたコーヒーを呷る

テセラ 「…」

俺はそれを真似て、眼下のコーヒーを一口含む

    「!!」

(うまっ!)

それは純度100%のコーヒーであった

石炭を溶かしてごまかしているうちのそれとは何もかも違う

辺りを見渡しても同じような感想を抱く

一般的なB地区の家屋と比べ、広く、小綺麗な住処であった

一番の特徴は、電気が通っていることだ

殆どの家では明かりを付ける時はロウソクが一般的で、ここまで現代科学の恩恵に与れる建物は数えるほどだろう

ヤマト 「どうした?」

そんな動揺が顔に出たのか、訝しげに尋ねてくる

テセラ 「いや、随分と贅沢な暮らしをしてるんだな」

ヤマト 「幸いなことに心強い協力者がいるものでね」

テセラ 「協力者?」

その刹那、目が誰かによって塞がれる

    「うわっ!」

?? 「だーれだ?」

そんな懐かしくも、人懐っこい声色

それもヤマトと同じく俺が昔から見知ったもので…

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