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十八話 『故人』

俺はユドを人知れず埋葬した後に、帰路に就く

彼の家に向かった時は赤黒いながらも、空は明るかったが今では完全に暗闇に身を落としている

…今日は1日がとても長く感じられた

それは友人の死に立ち会ったり、人との関わりの重要性を再認識したりと、自分の根幹を揺るがすような出来事が多かったからだろうか

テセラ 「…」

自分の手を力一杯握ってみる

痛かった

自分はまだ生きている

しかし…生きているだけ

この世界に生を受けているが、ただ無為に毎日を過ごすだけだ

いずれは俺も彼らのように無惨に殺されるか、人生に絶望したりするのだろうか

テセラ 「…っ!」

両手で自分の背中を抱く

不意に冷たい夜風が、俺の身体を包む

寒かった

…早く家に帰ろう

妹が、家族が、待ってる


………

……


少年 「おい、お前がテセラだな?」

不意に後ろから呼び止められる

テセラ 「?」

後ろを向いて、その声の主を確認する

    「子供…?」

最初に思い浮かんだ感想はこれであった

乱れた…というより手入れのされてない黒髪に、体格に合わない大きいコート、そして、こちらを睨みつける大きな目

背中には羽は生えていないために人間ではあったが、身長が仮に成人だとするとかなり低い部類に入るだろう

妹の身長とさして変わらない

少年 「チッ…俺はガキじゃねぇ」

髪の毛を鬱陶しげに掻きむしり、ボサボサの頭髪はさらに乱れる

テセラ 「なんでもいいが、俺になんの用だよ?」

少年 「『リーダー』がお前を呼んでいる」

   「俺と一緒に来い」

テセラ 「『リーダー』?」

聞き慣れない言葉だった

いや、言葉の意味そのものは当然知っているが、彼の言う『リーダー』という固有名詞はピンと来ていない

これは新手の野盗か…?

そうやって他者を暗がりに引き込んで、集団でリンチにするやり方だろうか

いや、それにしては方法が些か強引であることは否めないが

    「生憎、俺は『リーダー』というモノは知らない」

    「俺の名前をどこで仕入れたのかは知らないが、俺はお前に付いていく義理は無い」

少年 「『リーダー』もお前がそう言うと予想していた」

   「だから、言葉を俺に預けた」

テセラ 「言葉?」

少年 「『雨の日の故人、ここで待つ』」

テセラ 「…!!」

それは…!まさか…!

『故人』。この言葉は、死んだ人間だけではなく、昔からの友人にも使う事がある

つまり、俺の過去に知り合った人間だということ

それだけでは根拠不足だが、『雨の日』というのが全てを物語っている

これを知っているのは…奴しかいない

テセラ 「なるほど、『リーダー』に俺は呼ばれている訳だな」

少年 「だからさっきからそう言っている」

テセラ 「分かった。着いていこう」

少年 「話が伝わり易くて助かる」

   「こっちだ」

俺は彼に着いていく

恐らく、『リーダー』とはアイツのことだろう

昔を振り返り、数少ない人間関係を掘り返してみる

それは俺が『ゲリラ』に所属していた時の…

テセラ 「…」

しかし、一つ違和感があるとするならば、目の前のこの男

本質的には俺と同族の筈なのにも関わらず、彼が放つ殺気はチリチリと俺の肌を焦がす

いざという時のために、俺は護身用のナイフの柄に手に添える

それくらい、こちらに対して友好な雰囲気を一ミリも醸していなかった


………

……


少年 「着いたぞ」

徒歩で10分くらいだろうか

とっくに大通りからは外れ、入り組んだ家屋群に差し入れていた

B地区の郊外と言うべきか

ここら一帯は、天使族の秩序があまり行き届いていないばかりか、『死神稼業』ですら作業が困難な魔境

中心街と比較にならないほどの異臭が鼻を劈く

無秩序に組み上がったバラック小屋によって月夜が遮られ、今日は快晴なのにも関わらずここら一帯は一段と暗く感じた

その無数にあるバラック小屋の一つで俺達は足を止めている

少年 「…」

テセラ 「…?なんだ?入らないのか?」

少年 「…お前は『ゲリラくずれ』なんだってな?」

テセラ 「…そうだが」

『ゲリラくずれ』というのは、ゲリラから足を洗った人のこと。と言えば聞こえは良いが、天使族からの抵抗を諦めた腰抜けの烙印であった

俺は5年前、とある事情でゲリラから足を洗った

それを良く思わない人間は多くいるだろう

少年 「貴様…っ!」

急激に殺気が増す

その刹那、眼科に煌めくナイフを持った彼の顔が大きく映る

数コンマで間合いを詰めて来たのだ

テセラ 「…くっ!」

(ガキンッ!)

俺は隠し持っていたナイフを抜き、すぐさま応戦する

鉄同士が激しく打ち合い、火花が散った

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