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十五話 『死神』



テセラ 「ウっ…!」

『死神稼業』として、多様な死体…ないし肉片を見て来た俺だが、やはり身内の死というのは、堪えるものがある

胃液が逆流する感覚

口を抑えて、胸糞悪い不快感の波を無理やり押さえつける

ユド 「あ、あ…あっ、あ」

   「おぇぇぇぇぇぇえ!」

しかし、俺の友人は、この波に抗えなかった

地べたに、酸性の液体と、溶けかけている固形物を吐瀉する

それも1回ではない

何度も何度も…

彼の体内の液体を全て出しつくように

テセラ 「…」

俺はその姿を見るも、何の悪感情も湧いてこなかった

それどころか、ユドに対して一種の畏敬のようなものを感じていた

『友人』と言っても、究極的にはただの他人に過ぎない

それにも関わらず、彼は友人を心から想い、体ですらその反応を示している

理性と残酷さを持たなければ生きられないこの世界では、非合理的な感情…例えば、忠義、親愛と言ったものはもう不要だと言うのに…

男 「フゥー…」

  「よし」

親っさんは胸の前で十字架を切ると、遺体に近づき作業をし始める

男 「おい、テセラ。お前も手伝え」

テセラ 「は、はい」

ユドは今、あんな状態であるから使えないと判断したのだろう

俺だけに業務を割り振る

俺はそれに従い、遺体の処理を始める

一度作業を始ると、何も考えなくていいから楽だ

目の前にある肉塊はつい2日前までは、声を発しお互いに笑いあってがいた人間だったはずなのに、作業中はただの異物のように感じられる

服を剥ぎ、血を洗い流し、状態を検分する

男 「ふむ…所々で外傷が目立つが、内蔵や筋肉はまだ状態は良いな」

テセラ 「そうですね。これなら…」

男 「テセラ、今すぐ加工所の人間を呼べるか?」

テセラ 「分かりました」

俺は遺体から離れ、家から飛び出そうとするが…

ユド 「おい…何言ってるんだよ…」

手首をユドに掴まれる

テセラ 「何って…」

目は虚ろで、顔の穴という穴から大量の体液を流している彼は、見るに堪えない姿だったが、視線は明確にこちらを刺していた

ユド 「今、『加工所』って言ったよな?」

テセラ 「…そうだ」

この『死神稼業』は死体やゴミの処理だけが、仕事ではない

死体を検分した後に、その可食部を判断し、最終的に市場に流通させる仕事も請け負っている

単純に言えば、カニバリズムをほう助する立場に俺達はいるのだ

ユド 「お前…!ヒデの友達だろ!何でそんなこと平気で出来るんだよ!」

テセラ 「…仕方ないだろ、仕事なんだから」

ユド 「コイツっ…!」

テセラ 「ガッ…!」

顔面を殴られ、床に倒れ込んでしまう

テセラ 「ぐフっ…!」

そして、胸ぐらを掴み、無理やり立ち上がされ、再び殴られる

ユド 「おい!何か言ってみろよ」

テセラ 「…」

俺は何も言わない。いや、言えなかった

彼の立場も痛いほど分かる

俺だって、こんなことはしたくない

だが…

テセラ 「…仕方ない、だろ」

ユド 「それしか言えないのかよっ!」

再び殴られる

口元から生暖かい液体が滴り、顎を伝って重力落下を始める

それが地面に落ちる時、俺の中の何かが弾けた

テセラ 「俺だって!」

    「俺だって、こんなことしたくねぇよ!」

    「でも仕方ないだろ!?俺達が何人の人間を加工所にぶち込んだと思ってるんだ!」

    「だから、自分の身内だけ助けるとか、そんなこと出来るわけねぇんだよ!」

残された死んだ者の友人や家族は、一様に俺達に懇願してきた

『どうか、この人だけは、墓に入れさせてください』と

でも、俺達はそれは黙殺し、家畜のように肉を解体する

どの人間も泣きじゃくり、俺達を恨みつつも、最終的には我慢する

それが残された人間族の延命になると信じているから

それ故に、自分たちの身内だけを特別扱いするなんて俺には出来ないのだ

それは、彼らに対する裏切りに他ならない

ユド 「…っ!」

俺の真意に気づいたのか、ユドは握りこぶしを緩める

   「ちくしょう…」

   「畜生ーーっ!」

このどこにもやりきれない感情

誰も悪くない。悪意などどこにも無いはずなのに誰もが不幸だ

これを言葉に表現するのは難しい

強いて言うならば、『仕方ない』しか俺の乏しい語彙力では表現出来なかった

ユド 「くっ…!」

俺は、ユドから走って逃げる

ただひたすら加工所に向かう

俺が考えるのは、早く今日が終わらないかどうかだけだった

同僚A=ユド

同僚B=ヒデ

(四話参照)

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