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十三話 『会話』

最近不安定な天候が多かったが、今日に限ってはその限りではない

雲が水滴を地上に落とし、全てを出枯らし終えると逃げるように霧散した

その結果今日は快晴

冬も近いというのに、日差しが身体に染みる

…こんな天気がずっと続けば良いのに

俺はそんなことを考えながら、始業まで職場の近くのベンチに腰掛ける

同僚A 「よう、今日も早いな。テセラ」

テセラ 「…ああ、おはよう。ユド」

人懐っこい笑みで、こちらに近づき、隣に座ってくる俺の同僚

彼の名前はユド。5年来の仕事仲間である

性格はひょうきんでお調子者。一見、軽薄そうな雰囲気を醸し、初対面の人からすると、あまり信用出来ないというレッテルを貼られてしまう

だが、陰鬱な雰囲気が絶えないこの街では非常に珍しい人種だと俺は思う

実際、部下、上司からも良い印象で見られているらしく、周囲からの評価は高い

むしろ、完璧に隙がない人間の方がこのご時世では散臭く感じてしまうから、彼のような性格が輝いて来るのだろう

ユド 「今日も辛気臭い顔してんなぁー」

テセラ 「ほっとけ」

    「俺は元々こんな顔なんだよ」

ユド 「別に嫌味を言ったわけじゃないぜ」

   「この街でニコニコしてる奴の方がどうかしてると思うからな」

テセラ 「全くだな」

ユド 「でもな、たまには口角を上げる日が合ってもバチは当たらないと思うんだよ」

テセラ 「お前…1ヶ月前にも同じことを言ってなかったか?」

このセリフを言うと時は、何か企みがある時だと経験則で分かっている

まあ、彼のことだ。俺に何か不利益があることは無いのだろうが

ユド 「細かいことは気にするな」

   「お前も絶対に楽しめる!」

   「イイトコだからな」

そう言って、ユドは人差し指と親指で輪っかを作り、もう片方の手の人差し指でその輪っかに出し入れする動きをする

テセラ 「…また遊郭か」

    「2日前にもお前は俺に誘ってきたが、生憎そういうのには興味はない」

ユド 「違いまーす!串焼きでーす!」

テセラ 「…チッ」

ユド 「ごめんって、怒るなって」

テセラ 「それで?」

    「その串焼きがどうしたんだよ」

ユド 「この街のかなり外れに、串焼きが食べられる店を見つけたんだよ!」

   「メニューを見た感じ、結構なお値段だったがな」

テセラ 「ほう」

串焼き…つまり肉。動物性タンパク質が非常に手に入りにくいこの街では肉が売られているのが奇跡と言っても良い

そもそも食料が、配給所以外で手に入る事自体珍しいのだが

しかし…

テセラ 「ちなみに何の肉なんだ?」

ユド 「んー……」

テセラ 「…」

ユド 「シラネ」

テセラ 「…そんな得体の知れない物をよく食えるなお前は」

ユド 「食えればいいだろ。肉なんだし」

テセラ 「それが、人肉とかネズミの肉とかでもいいのか?」

ユド 「あのな。テセラ、そんな食べ物で好き嫌いがあるのはこの街でお前くらいだぞ」

   「人間も、ネズミも元々は動物だ」

   「それを腐らせてダメにするより、生きてる者がそれを食らって明日のエネルギーにすることの何が悪いんだよ」

テセラ 「それは…っ!」

    「いや…なんでもない」

俺は地面を見つめて項垂れてしまう

確かにユドの言ってることは理性では正しいと分かっている

俺達は明日、5体満足で生きているかも分からない

それは事故かもしれないし、殺人かもしれないし、栄養失調かもしれない

事故や、殺人は仕方ないかもしれないが、栄養失調はまだ自分たちの努力でなんとかなる

その手段がいかに倫理から外れようとも

だから、彼は正しい

正しいのだ…

たが、同時にそれは人間がやることなのか…?とも思ってしまう

少なくとも奴らが来るまではユドだって人を食うなんてことは考えなかったはずなのだ

男 「お前らそんな所にいたのか」

  「集まれ!朝礼を始めるぞ」

テセラ 「は、はい」

ユド 「うーい」

親っさんだ

気づけば始業時間になってしまったらしい

ユド 「…とにかく、その『潔癖症』は直した方が良いと思うぞ」

   「いつか、痛い目に見る気がするからな」

   「これは友人としての忠告だ」

テセラ 「そうかよ」

ユド 「まあ、とりあえず今日その店まで付いてこい」

   「1回食ってしまえば平気になるさ」

テセラ 「付いていくだけだ。食べるかどうかは俺が決める」

ユド 「それで十分だ」

俺達はベンチから立ち上がり、親っさんの背中を追った

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