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十ニ話 『接敵(後編)』

天使族A 「はあっ!」

ジロウ 「…っ!」

(ガキンッ!)

天使族A 「ふっ…!」

ジロウ 「…!」

(ガキンッ!)

金属と金属が、重なり合う音

鍔迫り合いが、夜道に轟く

(クソッ…クソッ…っ!)

私は、眼下の大男に何度も斬撃を浴びせる

一度振るたびに、剣が振動し骨にまでその衝撃が響いてくる

(ガキンッ!)

ジロウ 「…ッ」

だが、この男は私の攻撃を安々といなしてくる

身体能力、反射神経、臂力ともに私達が圧倒的に勝っているはずなのに…

天使族A 「なぜだ…」

たかが人間相手なのにも関わらず、つい及び腰になってしまう

この男から発せられるプレッシャーは尋常なものではない

覆面をしているため、表情までは計り知れないが、彼の視線は私の全てを見通すかのような錯覚に陥る

ジロウ 「もウ終わりカ…?」

攻撃の手が緩んだのを悟ったのかあまりにも浅ましいほどの挑発をする

…こんな侮辱は初めてだ

天使族A 「死ねぇッ!」

自分を奮い立たせ、渾身の一撃を放つ

ジロウ 「…ッ!」

(ガキンッ!)

だが、その攻撃も彼は容易に受け止める

(チッ…)

私は、追撃を避けるために一旦距離を取る

彼の背後を見ると、私が斬った男を、女が懸命に介抱していた

…彼らを使えないだろうか

いや、この2人を守るためにこの男はここにいるんだ

その発想自体が本末転倒ではないか…

自問自答を繰り返すが、結論は出ない

如何にして、この男を突破するのか私には分からない

思考の袋小路に陥っている感覚がさらに焦りを強くする

ジロウ 「隙だらけダッ!」

天使族A 「しまっ…」

眼中には、ギリギリまで距離を詰めた男が、私の腹部に向かって突きをする

これが一介の人間なら見事な攻撃だっただろう

だが、私は誇り高き天使族だッ…

天使族A 「甘いッ!」

ジロウ 「ガアッ!」

ブリッジの要領で相手の突きを避け、そのしなった体でがら空きの胴体に蹴りを入れる

生き物特有の、硬くて柔らかい感触

入った…!

男は前方に高く吹き飛ばされる

…辛うじて受け身は取ったようだが、この蹴りは人間には辛いだろう

ジロウ 「もう終わりカ…?」

たが、病人のような足取りでもなお再び立ち上がってみせる

そして、彼は虚勢を崩さない

人間族にもここまで誇り高い者がいるなんて…

生まれが違えば私たちは良い友人になれたものを…

なんだか複雑な気分だ

天使族A 「ここまでの戦い、実に見事だった」

     「まさか、数分といえども私たち天使族と互角に戦う人間がいるとは」

     「その戦術、戦法からお前たちはゲリラと判断した。普段ならその場で切り殺す所だが、お前たちのその勇猛果敢な戦いぶりに感服した」

     「ついては、極刑までしないように私の方から口添えしてやる」

     「だから、全員投降しろ」

ジロウ 「…」

数秒の沈黙

    「『我々はミュンヘン会談を繰り返すつもりはない』」

どの人間の言葉だったか…

つまるところ、妥協は不可

拒否ということだ

天使族A 「…そうか」

    「残念だ」

    「それならば、せめて私が引導は渡してやる!」

高速で彼に接近する

ジロウ 「…ッ!」

(ガキンッ!)

今日一番の轟音

もう戦術などはない。私の身体能力と臂力を以て、奴を押しつぶすッ!

ジロウ 「…ッ!…ッッ!」

相手の抵抗が段々と薄れていく感覚

金属の破片が頬に飛び散り、血が滲む

それと同時に奴の刃に亀裂が入る

これは勝った…!

このまま刃ごと奴を切断するッ!

その後に、後ろで大事そうに守られている男も殺すのだ

そして女も…

…?

違和感

女はどこにいる!?

ジロウ 「勝チを確信スるのはまだ早イぞ…」

天使族A 「…ッ!」

若い女 「貰ったぁぁぁぁ!」

天使族A 「ぐぁッ…!」

脇腹に短剣が突き刺さる

しまった…!

私としたことが、戦闘に熱中しすぎて周囲を確認していなかった

背後には、短剣を2本持ってジリジリと距離を詰めてくる女の姿があった

コイツも荒手か…ッ!

そして前方には態勢を立て直した男の姿

前後で挟まれる格好になってしまう

流石にゲリラ2人の相手は分が悪い

一人は確実に殺れるだろうが、もう一人は良くても共倒れで終わる気がする

魔法を使うか…?

いや、この距離だと詠唱が終わる前に攻撃されるリスクが高い

何よりも、私自身が傷を負ってしまった

ここは私が生き残って、総督に報告しなければ

そして援軍を要請するのだ

天使族A 「…もはやここまでか」

若い女 「こら!逃げるな!」

背中の羽をはためかせ、宙に浮く

夜の冷たい風が傷に当たるたびに鈍痛が脇腹

を襲う

天使族A 「実に素晴らしい戦いだった」

    「お前たちは必ず私の手で、殺してみせる」

    「それまでせいぜい殺されないことだ」

そんな三下の悪党の様な捨て台詞を吐き捨て、アクロポリスに向かって飛ぶ

天使族A 「ゲリラはまだ生きていたのか…」

    「全て排除したと聞いたのに」

    「しかしあの男…実に良い腕だった」

    「これは我々の脅威になるかもしれない」

下からの未練がましい対空射撃を肴に夜は更けていく


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