15.
「ヴィックス。大事な話があるの」
朝からなんだ?かしこまって。というか朝からメイクバッチリな親父は凄いと思う。
「で、なんだよ?」
「私、ケネス帝国に移住しようと思うのよ」
俺は朝から頭を働かせた。
ケネス帝国の皇帝にいたく気に入られてるんだよな。うーん。
「親父は‘情報’をケネス帝国に伝えるという大事な役割があるんだけど?」
「そうなんだけど、こうちゃんが移住してほしいっていうのよ~」
そうすると今まで親父から手に入っていた情報が入らなくなる。どうするんだ?こっちからは情報を与える代わりに向こうから海産物をっていう約束のハズだけど?
俺は帰国して商会長と何にも関わり合いがなくなったからなぁ。
一応、トロを通して陛下にも話をつけてもらうか。
「トロ、大変だ。親父が――――というわけで貿易に支障が…」
「それは侯爵の女装がどうこうって話じゃないね。すぐに対処が必要だ。陛下に紹介状を書いてもらって急ぎ、商会にアポイントを取る必要があるね」
『バード商会』の方が近いので、そっちの方にアポイントを取って、すぐに対応することにした。
全く、留学が終わったばかりなのに、親父が面倒をかける。
運よく翌日に会えることになったので、トロと二人でライレルク王国まで出かけた。
商会長、相変わらず神々しいな。
「お久しぶりです。急な事ですが、大変なことに。それで相談に」
「おう」
「ケネス帝国の皇帝がカイスター侯爵を気に入り、情報をこちらから提供するときには彼に頼んでいたのですが、ケネス帝国の皇帝がカイスター侯爵のケネス帝国への移住を求めているそうです」
「ほう。それは・・・」
「こちらから情報を与える係としてカイスター侯爵に頼んでいたのですが、このような事になってしまい…。こちらの一存では決めかねるので相談に参った次第です」
「そうだな。ケネス帝国の皇帝はカイスター侯爵を茶飲み友達として見ているのか?」
「それは定かではありません」
「ふむ。ケネス帝国の皇帝はカイスター侯爵のキレイな部分しか見ていない。情報を渡すときもそうだろう?さて、カイスター侯爵の朝のひげ面は想定しているのだろうか?メイクを落としたまるっきりオッサン状態になったカイスター侯爵の顔は想定しているのだろうか?そこが問題だよね?情報を与えるだけの姿はそりゃあ完璧な女性の姿だろうけど、今まで上げたような男が出てしまう姿は想定しているのだろうか?多分NOだろうね。返品不可にもできないし、はてさてどうしよう?」
「一度、男装した状態で情報をケネス帝国に渡すというのはどうでしょうか?男性ですから、すっぴんです。それでも受け入れる覚悟があるのであれば、個人の自由。他の者が情報を提供しても問題はないという事がわかります」
「いっそのこと、他の人が情報を提供した場合も視野に入れるべきでは?」
「それは、結構危険なんだよ。やはり男装したカイスター侯爵に頼もう」
「「はい、そのように手配します」」
親父め、難しい問題を。