10.
ある日、事件は起こった。
「あいつら俺らと同じで平民だと思ってたのに、貴族と王族?ふざけてるよな?お遊びで仕事してるんじゃねーよ。思い知るがいい…」
俺とトロは両商会長に呼ばれた。
それぞれに質問された。
どうやら商会内でお金が紛失したらしい。それで俺とトロがそれぞれ横領したのでは?という容疑が末端から上がっているそうだ。
「商会長、俺は金庫のある場所すら知らないところで働いています。お金を盗むのは無理では?そもそもの場所を知らないのですし」
トロは「王族が遊びで仕事してるんじゃねーよ。って横領の罪を押し付けられた感じですね。そもそも王族である私が横領をするメリットがありません」
と二人して、全面否認。
商会長の意見は、
「そうなんだよなぁ。それで悪いんだけど、しばらくの間罪をかぶったまま仕事してもらえないかな?多分周りの目は厳しいだろうけど。そうして犯人を炙り出すつもりだ。了解してもらえるかな?」
俺もトロも了解した。まぁ、周りの目とかは今に始まったことじゃないし?今までと同じ仕事してればいいのかな?
「ほらぁ、あの人が横領したって噂の…」
俺は周りの目に慣れてる。あの親父だしな。遠い目で遠くを見た。
「おーっと、悪いなぁ。ぶつかっちまった」
…俺、わりと高価な品物持ってたんだけど、ぶつかられちゃった。名前覚えておこう。
ふむふむ。トムとな。かなりよくある名前だな。この商会にトムは何人いるんだろう?品物仕分けるとこの人っていうと絞られるな。うん。こういうの懐かしいな。顔がにやけてしまう。
「何笑ってるんだよ?」
「いやぁ、懐かしいなと思って」
「懐かしい?変なやつ」
うん、親父は変だと思う。
親父の女装癖が学生の間で話題になった時の事を思い出してしまった。その時も同じような事があったな。俺がトロとつるんでると知れたら止んだけど。
「あの人王族なんでしょう?アタックすれば、王妃になれるかもよ~」
無理だよ。王妃教育は一朝一夕じゃできないから。
私に秋波を送る女子社員は増えた。意味ないのに。男子社員はどうにかしようとしてるみたいだけど。
しかし、横領か…。金庫の場所を熟知している人間だろうな。あと、私らの事も知っている人間に絞られる。
ということは、ケネス帝国に同行していた経理の人間という事か?少なくともケネス帝国に同行していた人間ということは確かだろうなぁ。
私は巻き添えか?今回のケネス帝国での功績は私よりもヴィックスの方が大きいからな。ヴィックス父だけど…。
ヴィックス父なら横領した金の使い道があるけど侯爵だし、侯爵家の執事のモールがそこら辺はしっかり見張ってるからなぁ。
犯人は知る由もなしか…。
とりあえず、ケネス帝国に同行した人間かつ、初皇帝に謁見の場にいた人間てことだなぁ。
私がグダグダ考えてることはすでに商会長たちは考えて人物をピックアップしてるだろうな。