1-1以前
【世に善も悪も無し、あるのは欲のみ】
朝の光が差し込む部屋。
部屋の一角に置かれてる寝台で、少女が毛布に包まりながら目覚める。
「ふぁあ~・・・。もう朝か」
ミチカ/湯苑は憂鬱な気分で寝台から起き上がる。
少しごちゃついた寝室を歩き。
どうしようも無い気分のまま、学校に行くための準備をする。
しかし、気分とは裏腹にせっせと準備をして、ミチカは制服に着替えた。
不満げながら、取りあえずお腹に何かを入れようと、居間に向かう。
居間に入って点けた受像機から、日々の出来事を淡々と流す報道が流れていく。
それらを聞きながら少量だが、しっかりと朝食を取り、一息つく。
十数分経ったのち受像機を消し、とぼとぼと部屋を出て登校していく。
38階建ての学生寮。
その13階にある自室から出て、7基ある昇降機の広間に待機している他の学生たちを横目に、ミチカは1階まで階段で降りようとしていた。
13階から階段で降りるのは、普通なら億劫になる所だが。
1階まで降りるのに大分、猶予が出来るので。
学校へ行くまでの時間稼ぎが出来て、気持ちに猶予を作ろうとしたが。
しかし、気分はそこまで持ち直せる訳では無かった。
「ふぅ、はぁ。憂鬱・・・。はぁ・・・」
1階まで降り切り、学生寮の外に出た彼女は。暗い顔で空を見上げる。
彼女を見下ろす様に、青々した空に。空に向かい等しく聳える摩天楼群。
圧し掛かる空の高さに。後味悪い顔をしながらも、学校へ行かなければならないので。前へと足を動かした。
眠気交じりに欠伸をした後に溜息を尽いて、この世の終わりの様な目つきで学校へと歩いていく
「一応準備はしてきたけど・・・。あぁもう」
今日の実技実習について不安を募らせ。
自分の出来なさ具合は、自分事だが酷すぎるとまた自覚して、溜息を尽いてまんじりと歩いていく。
すると後ろから。
「ミチカちゃんおはよ!今日大変だねぇ!」
級友の女子生徒が元気に挨拶しながら、隣に並び歩いてくる。
特に特徴があるようでない様な女子生徒である。
「そう、おはよ・・・」
隣に歩く少女にミチカは、カラ元気に返事する。
合流した二人は、他愛のない会話をするが。
ミチカは今は誰とも会話したくないと思っているので、本当は無視したい所であったが。
無視するのもなんだしで、社交辞令として会話しながらも。今日の実技実習への不安で、頭の中がずっと渦巻いて。会話も、ほぼほぼ上の空であった。
「でね。ユミキくん、凄い魔法を覚えたんだって。凄いよね」
「ええ、そうね・・・。凄い」
隣を歩く少女から来る会話に、ミチカは顔を向けることなく素っ気なく返事する。
ミチカの裡では、実技実習への不安からので絶望で一杯一杯なので。返事をするのも気が滅入っていくのと、そもそも会話したくない。
学生寮から学校までは徒歩で10分。
未だに憂鬱な気分のまま。隣から喋りかけて来る女生徒と共に、摩天楼群の中を歩き。学校正門前に辿り着く。
周囲の高層建物の中で見れば、一際低い6階建ての校舎。
この街、吉口第十五学園都市。
数百ある学校群ある学園都市の一校、都立エルセル魔導高令学校にミチカは覚悟を決めて登校する。
それが彼女が過ごした安念な日々に別れを告げる覚悟にもなってしまった。