第6話 ポーター=最強、最強≒ポーター
朝、目が覚める。
やっぱり戻ってるなんてことないよな。
シンプルな部屋の中にある硬めのベッド。
(…いい加減諦めろよ俺。)
気を取り直して顔でも洗うか。
部屋に水道なんてものはありませんでした。
(そりゃそうだよな。
トイレもよくわからない作りだったし。)
階段を降りて建物の裏側へ。
そこには井戸があり、ツルベ式のバケツを持ち上げれば半分ほど水が入っていた。
「…冷たっ!」
一気に目が覚める。
取り敢えず顔は洗ったが、次の問題も浮上する。
(これから風呂はどうしよう…。
流石にこの水を被ったら、最悪心臓麻痺かもな。)
まぁその辺は後から誰かに聞くことにする。
幸いにもギルマスが手配してくれたのは朝食付きの宿だった。
夜の客は多かったし、飯もなかなか美味かったので朝食もそこまで心配はいらないだろう。
テーブルに座ると、恰幅のいいお姉さんがトレーに乗った料理を運んでくれた。
どうやら注文ではなく決まったメニューを食べさせてくれるらしい。
見たことある料理と見慣れない料理が半々くらいか。
スープは味が濃くて少しきつかったが、周りを見ればパンを浸して食べていた。
(なるほど、この硬いパンは浸して柔らかくして食べるのか。)
やり方に倣って食べてみたら意外といける味だった。
サラダもどきはどうやら火が通っているらしい。
そう言えば叔父さんも言ってたな。
『紘汰、サラダが生野菜のまま食べられるのが当たり前だと思うなよ?
これは日本が特殊なだけで、海外では食べれないことが多いからな。
俺が日本に戻って一番に食べるのは絶対に生野菜のサラダだ。
別に野菜が好きなわけじゃないけど、これだけは絶対に外せないんだ。
お前も海外に行くことになればこの気持ちはわかるだろうな。』
まさか海外どころか異世界でそれを体験するとは思いもしなかったけど。
朝食を終え、部屋に戻り着替える。
いつの間にかギルマスは、ヒース達にこの世界で違和感がないような、普通の服を買ってくるように頼んでいた。
俺がヒースに礼を言うと、
「礼ならギルマスに言ってくれ。
俺は頼まれた買い物をしただけだ。」
と言いながら去っていった。
去り際に耳元でこっそりと
「ギルマスは気を遣いすぎるくらい気を遣ってくれるのに、礼を言っても知らん顔するからな。
まぁ感謝の気持は大事だから言うのは言うんだけど、それよりもその分ギルドのために働いたほうがこの人は喜んでくれるぜ。」
と、教えてくれた。
ギルマスはそっぽを向いていたけど、少しだけ耳が赤くなっていた。
(ホントにいい人だな。)
見た目によらず。気遣いやで、俺みたいなどこの馬の骨とも分からない者にまで親切にしてくれる。
本当に人は見た目によらないな。
そんなことを考えながら階段を降りると、ギルマスはカウンターで宿のお姉さんに怒られていた。
どうやら昨日遅くまで飲んでいたことで寝る時間が減ってしまったらしい。
俺を見つけると、助かったとばかりに寄ってきて、そそくさと宿を出る。
(一応ギルドの偉い人なんだよな?)
疑問に思わないことないわけでは無いが、大人は色々とあるんだろう。
ギルマスに続いて宿を出ると、町は夜とはまた違った顔を見せてくれる。
「迎えに来てもらえるのはありがたいんだけど、仕事は大丈夫なの?」
「まぁ俺がいなくて困るようなことはない。
あいつらはみんな優秀だからな。
それに行き先は伝えてあるし、どうしようもなくなったら連絡鳥でも飛ばしてくるだろ。」
それに、と言いながら俺の方を向いて、
「だいたいお前ギルドまでの道のり覚えてるのか?」
と言われた。
言われてみれば確かに昨日は余所見ばっかりしていたから、道順はほとんど覚えていない。
まぁ誰かに聞けば教えてくれるだろうが、その人がどんな人なのかも俺には分からないのだ。
俺の考えが分かったのか、
「そういうこった。」
と呟いてまた歩き出す。
俺は一言ありがとうと言った。
ギルマスは黙って頷くと、少し照れくさそうに少し早足になって先を歩いていく。
体感で10分ほど歩いたところに、一際きれいな建物があった。
躊躇いもなく入っていくギルマスに続くと、中は日本でいうお洒落なカフェのような内装になっていた。
冒険者ギルドのようなカウンターには2人の女性が座っており、片方は女優さん、もう片方はアイドルのような整った顔をしている。
俺が見惚れている間に話が終わったのか、ついてこいと言われ、建物の奥に進む。
複数の部屋の入口を通り過ぎ、一番奥の重厚な扉の前まで行くと、
「相変わらずいい趣味してんなぁ…。」
と呟いた。
(知り合いなのかな?)
と疑問にも思ったが、聞く間もなく扉を開けて入っていく。
中は白を基調とした明るい雰囲気に包まれた部屋だった。
入ってすぐのところに、これまでよりも華やかな女性が座っており、ドラマとかに出てくる大会社の秘書のような感じを受けた。
どうやらここまで話は通っていたらしく、その女性は
「お待ちしていました。」
と一言告げてさらに奥の部屋へと案内してくれた。
奥の部屋のバカでかい机にいたのは、いかにもやりてな女社長といった感じの女性だった。
なんというか、この建物の中の女性だけで一本のドラマが完成する気がするよ。
女社長に促され、ソファーのようなものに腰掛けると、お尻がズブズブと沈んでいった。
座り心地がいいかと聞かれたら微妙と答えてしまうほどの沈み具合に違和感を覚えるが、横のギルマスは平気な顔をしている。
俺も平静を装って座っていると、女社長から切り出してきた。
「その子が例の?」
「あぁ、シスターのお墨付きだ。
ちなみに天職はポーター。
ホントは俺のとこで面倒見てやりたいところだが、ポーターってことで連れてきた。
悪いやつじゃねぇし、それは俺が保証する。
悪いが面倒見てやってくれ。」
そう言うとギルマスは頭を下げた。
俺も慌ててよろしくお願いしますと頭を下げる。
「キミ、名前は?」
「ミカゲコウタと言います。」
「うん、どうやら本当みたいだね。
まぁ、シスターの言うことを疑うわけじゃないが、やっぱり自分の目で見てみないとどうにも…ね。」
女社長は俺を値踏みするような目で見てくる。
うん、これは若干変な癖になりそうだな。
「よし、ウチで見ることに異論はないよ。
それからキミは今後コータと名乗りなさい。
コータも変わっちゃいるけど、ミカゲコウタなんて聞いたら普通の人は変に思うからね。」
そうなのか。
まぁ確かに人数は少ないが、俺が出会った人で名字っぽいものを持ってる人はいなかったしな。
俺はわかりましたとだけ答える。
「言い忘れてたね。
アタシはコローネ。
このポーター協会の会長をやらせてもらってる。
ポーターは数が少ないから、王都にあるのはここだけだね。
ちなみに他の国には、有る所と無い所があるけど、ポーターの仕事は同じだから安心しな。」
それから俺はポーターという職業についてコローネさんから詳しく教えてもらった。
昨日ギルマスにある程度のことは聞いていたので、その補足とポーター協会内の事についてが殆どだ。
ちなみにコローネさんの呼び方についてはコローネさんか姐さん、会長がギリギリ、コローネ様とか呼んだ日には減給と謹慎で、オバサンなんて言った日には、川に沈むか魔物の餌になるかの2択になると言われた。
うん、絶対に間違えられないな。
それから俺のポーター登録をした。
免許証みたいなカードに血を1滴垂らすことで登録されるらしい。
これは最先端の技術を用いているそうで、偽造不可や認証者以外の使用不可等、様々な技術と魔術が組み込まれているそうだ。
ちなみに最初の発行は無料だが、無くした場合の再発行手数料は金貨25枚らしい。
俺がビビっていたら、コローネさんが笑いながら、
「だいたいみんな収納魔法か魔法袋に入れてるよ。」
と教えてくれた。
収納魔法もマジックバッグも術者のみしか使用できない仕組みだが、
・マジックバッグは発動媒体である本体さえあれば消費魔力0で使える
・収納魔法は発動媒体を必要としないが、収納した容量により魔力を消費する
この2つの違いがあるらしい。
ちなみにマジックバッグは発動媒体の大きさで容量が変わり、発動媒体の素材により中の時間経過が変わるらしい。
容量の大きさは発動媒体の約10倍程度らしいので、希少素材で大きめのバッグを作れば、消費魔力無しで時間経過無しの巨大な空間を持てるという事だ。
ちなみにそれだけの物を作れるのは世界でもごく一部のハイエルフしかいないらしい。
発動媒体が手のひらサイズの大きさで良ければ、協会が契約しているエルフが2日で作ってくれるそうだ。
逆に収納魔法を使用する場合は、使用者の熟練度と魔力量によって大きく変わる。
収納魔法はポーター優遇魔魔法と揶揄されているが、魔力適正さえあれば高ランク冒険者でも使える人はいるそうだ。
しかし、収納量はせいぜい4人パーティーの軽食1食分、しかも時間経過は通常通り、さらに魔力消費は1分につき1。
この世界最高峰の賢者でさえ、総魔力量は200に届かないと言われている。
仮に賢者の魔力量を限界値の200と仮定したとしても、持ち運べるのは干し肉4人分を3時間20分、更にその間は他の魔法を使用すると保存時間が短くなってしまうという。
それに加えて出し入れの度に物に応じて魔力も消費するのだとか。
ちなみに収納限界時間を超えると、収納していた物はどこかに消えてしまい、二度と取り出すことはできないらしい。
対してポーターの収納魔法消費魔力は1/10、時間経過は10倍となる。
ベテランになると消費魔力は1/30、時間経過は30倍になる。
コローネさんクラスになると、時間経過なし、容量は王宮の家具を全て入れてもまだまだ余裕があるらしい。
それでいて消費魔力は一般的なポーターが使用する魔力の1/100に抑えられるそうだ。
これが世界最高のポーターである所以で、このクラスのポーターはコローネさんを含めて世界で3人しかいないらしい。
うち1人は魔王城の近くに新たに発見されたダンジョンに潜ったまま2年以上帰ってきていないらしいし、もう一人も行方不明となっているので、実質動けるのはコローネさん1人だけらしい。
ちなみに心配しないのか聞いてみたら、
「やつらの心配するのは、私が明日突然男になるかもしれない事を心配するのと同意義。」
らしい。
ちょっとよくわからないな。
ここまで聞いて疑問が一つ。
(たしか俺って収納スキル持ってたよな?)
一人悩んでいても仕方ないので聞いてみる。
「実は俺、収納スキルを持ってるみたいなんですけど、どうすれば使えますか?」
何気なく、本当に何気なく聞いてみたのだが、
コローネさんは飲んでいた紅茶を吹き出し、それがもろにギルマスの顔面に直撃。
ギルマスは呆気に取られていたが、熱々の紅茶を顔面に受けて飛び上がり、その拍子に足がテーブルに当たって、テーブルごとひっくり返るという大惨事になってしまった。
驚いた秘書さんが慌てて入ってくると、部屋の惨状を見て何かを察したようで、部屋を出ていった。
すぐに戻ってきたら、入り口にいた二人とは別の美人さんが3人で、あっという間に部屋を片付けてしまった。
なんて仕事のできる人たちなんだ…。
気を取り直してコローネさんを見ると、何だかブツブツ呟いている。
ギルマスはギルマスで窓により掛かり遠くの方を見だした。
皆さんなにかお疲れのようですね。
俺は新しく淹れ直してもらったお茶に口をつける。
うん、うまい!
ほっと一息ついたところでコローネさんの再起動が終わったらしく、ゆっくりと手を伸ばすと、凄まじい速さで俺の頭に振り下ろしてきた。
俺のスキル危険感知が頭の中で鳴り響くのと同時に、コローネさんの手刀が俺の頭を直撃する。
このスキル役に立たなくね?
それから始まる理不尽な説教。
怒られたポイントは3つ。
・安易に所持スキルをばらしたこと
・ポーターレベル3でしか習得できないはずのスキルを所持していること
・そしてそのスキルの使い方を知らない事
1つ目は俺が悪いと思う。
昨夜ギルマスから口酸っぱく注意も受けてたしね。
それに、収納スキルやマジックバッグがどんなに本人しか使用できなくても、手段を選ばなければ遣り様はあるらしい。
だけど、2つ目と3つ目に関しては俺は悪くないと思う。
そもそも俺はスキルなんて無縁の世界から来たわけだし、使い方なんて知らなくて当然、むしろ知っている方がおかしいと思う。
それに、気付いたら所持していたものを何故持っていると怒られてもどうしようもないのだ。
あれ?
その理屈だと1番もそこまで怒られることじゃないよな?
余計に火に油を注ぐ形になりそうだから言わないけど。
黙って怒られる俺を見かねてか、ギルマスが助け舟を出してくれる。
ありがとうギルマス。
本当に貴方には助けてもらってばっかりだ。
ただできればもう少し早く助けてほしかったな。
具体的には怒られる内容が3周目に入る前に。
コーヒーが好きですが、飲み過ぎなのか眠気が取れなくなってます。
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