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第5話 必要ないときもある

「取り敢えずエールでいいか?」


ガヤガヤと騒がしい店の中で、比較的個室に近い席に通されたギルマスと俺。


「取り敢えずも何も、酒なんて飲んだことないんだからわからないよ。

ギルマスのお勧めでお願い。」


「おっと、そうだったな。

じゃあ適当に見繕ってもらうか。」


すごく変な気分だ。


工事現場でバイトしていたときに、現場のおやっさんから夕飯を奢ってもらった時のことを思い出した。


俺は未成年だったから酒は飲めなかったけど、おやっさんは席につくなり


「取り敢えず生!

それと適当に見繕って!」


と言っていた。


ガキじゃないので意味はわかるが、働く男って感じでかっこよく見えたものだ。


…まさか違う世界でも見られるとは思わなかったが。


「じゃあ取り敢えず俺の知っていることを教えてやる。」


ギルマスはそう言ってこの世界の事を教えてくれた。


この国のこと、他国のこと、そしてこの世界で暮らす人々のこと。


「まぁお前のジョブがポーターなら、そのうち行くこともあるだろう。

俺がどんなに説明したって、お前が実際見てみないことには分からない事だらけだろうからな。」


確かにその通りだ。


どれだけ熱心に説明されたとしても、百聞は一見に如かずという言葉通り、経験に勝る知識はない。


金銭感覚については余り違いがないようだ。


銅貨1枚  =   100円( 百円)

大銅貨1枚 =  1000円( 千円)

銀貨1枚  = 10000円(一万円)

金貨1枚  =100000円(十万円)


安宿の食事なしが大銅貨3枚程度らしいので、安いカプセルホテルとあまり変わりはなさそうだ。


泊まったことないけど知識としては知ってるよ?


それと冒険者についても教えてもらった。


仕事内容は多岐にわたり、初心者が可能なのは町中の溝浚どぶさらいや荷物運び、町の外に出て薬草の採取だけで、魔物の討伐はできないらしい。


これは冒険者の命を守るためで、仮に魔物を狩ったとしても、なんの功績にもならないどころか、良くてお説教、最悪の場合はライセンスの剥奪に繋がるらしい。


地道に力を付けろってことだな。


例外なのが上位職の中でもハイレアと呼ばれる希少職以上の者。


この場合は登録した時点で一般冒険者にあたるブロンズランクと同じ扱いらしいが、該当することが少なすぎるらしい。


ランクはストーン(初心者)→アイアン(初心者卒業)→ブロンズ(一般冒険者)→シルバー(ベテラン冒険者)→ゴールド(超一流冒険者)→プラチナ(伝説級)→ブラック(神)と上がっていくらしい。


プラチナまではなんとなく分かるが、一番上が黒なのは疑問だ。


そういえばギルマスはゴールドだったな。


見た目によらず凄いんだな。


思い切って聞いてみよう。


「ギルマスはゴールドまでいったんだろ?

一体何をすればそこまで上がれるの?」


「俺か?

俺の場合は未発見ダンジョンの踏破と魔物大暴走の鎮圧だな。

もちろん俺一人でやったわけじゃねぇぞ。

命を預けられるダチがいて、そいつ等と何回も死線をくぐり抜けた事が出来たからだ。

もちろん途中で落っこちたやつもいる。

だがそいつらに誇れる自分で居続ける事が出来なきゃ、俺も今頃どっかでくたばってたかもな。」


ギルマスはそう言うと少し寂しそうな目をして、残りのエールを飲みほした。


それを聞いて俺は思う。


日本は世界的に見ても治安が良くて、命を大事にする国だった。


もちろん俺の親のように途中で亡くなってしまうこともある。


だけどこの世界では命の価値が凄く軽い。


それこそ、突然魔物の大群が襲ってきて、ここにいる人達が全員死んでしまうこともあるのだろう。


いや、シスターの言っていた魔王がいた時代は、今より遥かに死というものが近くにあったのではないだろうか。


おそらく俺と同じ地球から来た勇者は、どんな思いで戦い抜くことが出来たのだろう。


少なくとも今の俺には到底無理だ。


少なくとも見ず知らずの他人のために、自分の命をかけるような事はできないと思う。


でもだからこそ、勇者はこの地で愛する人を作ったんじゃないだろうか。


見ず知らずの他人のためではなく、自分が愛した人とその子どもたちのために。


『誰かのために生きる。』


口にするのは簡単だけど、それを実行できるのはごく一握りの存在だけだろう。


俺にもそんな生き方ができるだろうか。


生まれて20年も経っていないガキの俺が、愛する誰かのために命を懸ける。


魔王を倒した勇者がどこに行ったのかはわからないらしい。


もしかしたら地球に戻れたのかもしれないし、最悪別の何処かに飛ばされたのかもしれない。


理由も分からず突然こんなところに来てしまったのだ。


また同じことがないとは言い切れない。


その時残された人たちはどうするのだろう。


俺ももう現状を受け入れている。


やり残したことや悔いがないとは言い切れないが、それを悔やんだから帰れるわけでもない。


命が軽いこの世界で、精一杯生き延びてやる。


ギルマスの話を聞きながら、俺はそう固く決心した。


「…なんか思い詰めた顔してんな。

いや、思い詰めたって感じより、心を決めたってところか?

まぁいい、取り敢えず飲め。

別に悪いようにはしねぇよ。」


そう言ってギルマスはエールの入った木製のグラスを持ち上げる。


俺も自分のグラスを持ち上げて、


「乾杯」


と言いながら少しだけ縁を合わせる。


「なんだ今の?」


「嬉しいときや願い事をする時に使う挨拶だよ。

お祝いなんかの時にするんだ。」


「へぇ、いいなそれ。

じゃあもう一回、お前の今後に神様の御加護があるように。」


「「カンパイ」」


もう一度縁を軽く当てて残りを飲み干す。


美味い。




『毒耐性を獲得しました。』


…なんか頭の中に響いたぞ。


いい気分が台無しだよ。


何故か一気に酔いも冷めたし…。


「…なんでいきなり妙な顔してんだ?」


「いや、よくわからないんだけど、突然声が頭の中に響いて…。」


「お前まさかスキルを獲得したのか?」


「いや、よくわからない。

頭に声が響いたら、一気に酔いが冷めちゃって…。」


「…とんでもなく規格外なやつだな…。」


ギルマスは凄く呆れた顔で俺を見る。


「ちなみになんて言ってたんだ?」


「えっと、毒耐性を獲得しました…だったかな?」


「おいおいおい、お前それ洒落にもならんぞ。

だいたいスキルなんてのは死ぬほど苦労した先で、ようやく取れるか取れないかってもんなのに…。

まさか酒のんで獲得するなんて…。

多分こんな話は誰も信じねぇだろうし、こんな馬鹿な取り方できるのは後にも先にもお前だけだろ…。」


「そうなの?

なんか褒められてるのか貶されてるのかわかんない言い方だなぁ。」


「……呆れてんだよ。」


「それよりこれはどうすればいいの?

せっかくのいい気分が台無しになっちゃったよ。」


「あぁ、まぁ丁度いいからそのまま聞け。

後からスキルの使い方ってのも教えてやるが、酒のんでて忘れましたじゃ話にもならんからな。

まずはお前の職業についてだ。」


それからギルマスはポーターについて教えてくれた。


要約するとポーターとは

・冒険者ではなく冒険者の補助をするもの

・荷物持ちから斥候、状況把握と味方への指示をメインに行う

・ポーターにはポーターでしか取れないスキルが多いこと

・ポーターが使う魔法は魔術に近く、本人の魔力量とは関係なく自由に使うことができる

 熟練のポーターになれば魔力消費がほぼ無くなること

・昔はポーターといえば役に立たない職業の代表格であったが、現在はその有用性が認められて、冒険者ギルドではなくポーター専門の協会が作られている

・いいポーターとは仲間に傷を負わせないこと、逆に下手なポーターではベテラン冒険者でも死ぬ危険性が高まる

・ポーターの利点としては戦闘に参加しなくてもそれ以外をこなせば許されることが多い

 また、依頼達成報酬の2〜3割が保証されている

 これに違反した場合、そのパーティー及びメンバーはポーター協会からポーターの派遣を受けることが出来なくなる

 逆に欠点として、ポーターのミスでクエストを失敗した場合は、そのポーターはペナルティとして一定期間の受注が出来なくなる

 その際に依頼失敗によるペナルティについても、そのポーターが負うこととなる


まとめるとだいたいこんな感じだった。


まぁ他にも色々と教えてくれたのだが、はっきり言って優遇されすぎている。


ちなみにポーターにも冒険者と同じようにランクがあるが、冒険者ほど苦労せずに上がっていくらしい。


高ランクのポーターの場合、引く手数多で常に数が足りていないそうだ。


(なんだこの優遇っぷり…。)


ほぼ悪いことが見当たらない。


そしてようやくギルマスが俺やヒースに対して当たりといった意味がわかった。


ちなみに現在世界最高ランクのポーターはランク5で、これは世界に3人もいないらしい。


あれ?


俺のランクって5まであったような…。


気になったので確認してみると、やはり1/5となっていた。


これがランクだとするなら、俺の上限レベルは5ということだろう。


そうなると俺は世界最高の荷物運びになるのか?


…なんかあんまりかっこよくない気がするな。


色々と質問をしたが、ギルマスもポーターについてはわからないことが多いらしく、明日にでもポーター協会を紹介してもらえることになった。


助かります。


その後スキルについての説明を受けた。


どうやらスキルには常時発動型レギュラー緊急時発動型スクランブル、それに自己選択型セレクションがあるらしい。


冒険中でなければ特に必要ないと言われたので、早速毒耐性スキルを切ってみたが何も変化は起こらなかった。


不思議に思っていると、


「もしお前が本当に毒にかかっていたとして、スキルを切ったときにその毒が効いたらどうなる?」


と呆れ顔で言われたことで納得した。


そりゃ町に戻った時に毒が発動したら大変だよな。


俺だけならともかく感染する毒とかもあるだろうし…。


「理解したか?

まぁ酒なら飲みなおせばいいし、どんなに酔ってもスキルさえ発動させればまたシラフで飲めるんだ。

酒好きには堪らねぇスキルだな!」


と羨ましそうに言っていた。


まぁ言われてみればそうかもしれない。


何より二日酔いがないってのは良さそうだ。


父親はあまり飲む方ではなかったが、会社の集まりなどで飲んで帰った日は、次の日がかなりきつそうだったしな。


そう言えば父親と飲むこともできなかったな。


少しだけ寂しい気持ちになったが、気を取り直してギルマスと色々な話をした。


この世界のこと、俺の世界のこと、これまでのこと、これからのこと。


そうして夜遅くまで飲んだ俺達は、店員さんに追い出されるまで飲み明かすのだった。



○○○○カードの年末のが当たりました。

甥っ子、姪っ子との約束なのでそのまま渡したら、すごくいいやつが当たったそうで、子供よりも親のほうが驚いてました。


誤字、脱字、表現の問題等ありましたら、ご連絡をお願い致します。

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