第4話 鮭を咥えたクマは羆
ギルマスは相変わらずノッシノッシと歩いている。
途中冒険者っぽい人達に声をかけられているが、話し込むでも無視するでもなく、一言二言会話をしているようだ。
はぐれたら困るので、俺もしっかり後をついていく。
町の中は来るときよりも人が多くなっていた。
そこかしこからいい香りが漂ってくる。
よく考えたら簡易食しか食べていないんだった。
気付いたらすごくお腹が空いてきた。
未だに信じられないが、朝と今では置かれている状況が違いすぎる。
もし今の俺が朝の俺に現状を説明しても、頭がおかしくなったと思われるだけだろう。
今でもまだドッキリだったらいいなと思ってるくらいだし…。
ギルドに戻ると、職員の人たちがギルマスに挨拶をする。
ギルマスは軽く手を上げてから、
「リア、悪いがこいつの着ていた服を頼む。」
と、リアさんに声をかけた。
「はい、わかりました。」
リアさんはそう言うと、後ろの部屋に下がっていく。
ギルドの中を見渡すと、大中小の看板が3種類あり、あとはテーブルがいくつか、それと職員さん用の長いカウンターに4人が座っている。
みんなから物珍しそうに見られた俺は、気恥ずかしさを覚えて看板の方に目を向ける。
一番大きいのが依頼用、真ん中がメンバー募集かな?
小さいのも依頼用みたいだが、看板には常設依頼と書いてある。
中身は薬草採取や鉱物採取、町中の清掃など多岐にわたるようだ。
大きい方には魔物討伐や生態調査、商人の護衛などの依頼が貼ってある。
報酬金額もピンキリだな。
メンバー募集の方は、魔法士や回復士などの職種を限定したものから、ブロンズ以上などのランク指定もある。
募集は多いが、どの紙にもポーターの募集がない。
ギルマスは当たりだって言っていたけど、その辺も食事しながら聞いてみよう。
「はい、どうぞ。」
鈴が鳴るような可愛い声でリアさんが呼んでくれた。
(ホントにカワイイ。)
少しだけ見惚れてしまっていたが、慌てて服を受け取る。
「あの…、着替える部屋をお借りできますか?」
リアさんは少しだけ不思議そうな顔をしながら、こちらです、と案内してくれた。
着ていた服に着替えると、やはり安心感が違う。
開放感と若干の背徳感はあったけど、やはりパンツはいいものだ。
着替えを済ませ部屋を出ると、冒険者らしき人が、慌ててギルドに入ってきた。
「今日の依頼分なんだけど、なんとか処理して貰えないか?」
どうやらギルドはもうすぐ閉まるらしい。
よく見れば職員さんたちも掲示板やテーブルの片付けのようなことをしている。
その中でも声をかけられた女の人は、少しだけ困った顔をしながら、どう断ろうか悩んでいるようだ。
「すまんがそいつらの分は完了処理だけしてやってくれ。
討伐証明と魔石の確認は明日でいい。
今からじゃ解体所の連中も困るだろうからな。
ヒースも手間だが明日の朝からもう一度こっちに来てくれ。」
ギルマスが指示をする。
よく見ると、俺が初めて会った3人組の1人だった。
「ギルマス助かります!
これで今夜は旨い酒が飲めそうだ!」
「ヒースさん…でしたか?
覚えてますか?」
「あぁ、もちろん。
というかあんな衝撃的なこと、忘れようにも忘れられないって!
元気になったみたいだな?」
初対面の時とは違い笑顔で対応してくれるヒースさん。
「おかげさまで助かりました。
今は何もお返しできないのは心苦しいですが、俺になにかできることがあれば遠慮なく言ってください。」
「そんな堅苦しく考えなくていいって。
困ったときはお互い様だろ?
それにそんな変な喋り方もしなくていいぞ。」
「わかり…わかった、ありがとう。
ただ、感謝してるのは本当なんだ。
だから何かあったら遠慮なく言ってほしい。」
「おう!
そんときは遠慮なく頼むわ!」
そして少し雑談をしていると、
「ハァ…ハァ…。
ヒース…早すぎ…。」
肩で息をしながら二人の女性が入ってきた。
「あぁ、悪い悪い。
でも今日中に処理してくれることになったんだから、あんまり怒らないでくれよ?」
「え?
間に合ったの?
良かった〜。
これで少しだけ目標に近づいたね!
あれ?
その人って…。」
「あの時はお世話になりました。
ギルマスから3人に助けてもらったって聞いて、お礼だけでも伝えたかったから、お会いできて良かったです。」
と頭を下げる。
「あ、いや、私達は当然のことをしただけだから…」
だんだん声が小さくなって、最後は聞き取りにくかったが、なんとか受け入れてもらえたようだ。
「悪いな、ミリーは人見知りなんで知らないやつとはちょっと距離を取っちまうんだ。
まぁ根はいいやつだから勘弁してくれ。」
「いや、こっちこそ急に話しかけたりして申し訳なかった。
さっきヒースにも伝えたんだが、何か俺にできることがあれば遠慮なく言ってほしい。
その時は必ず力になる。」
ミリーさんは
「あ、はい。」
とだけ言ってヒースの少し後ろに下がった。
嫌われたかな?
人見知りなだけだと思っておこう。
扉の方にはシャオさんがいた。
改めて見ると、町で見かけたエルフっぽい人より少し耳は短いが、この人もたぶんエルフなんだろう。
目があって挨拶をしようとしたら、
「今の話は聞いた。
ミリーも言ったけど私達は当然のことをしただけ。
気にする必要はない。」
と、先手を打たれてしまった。
「ありがとう、感謝してる。」
とだけ伝えておく。
「挨拶は終わったみたいだな。
ヒース、ミリー、シャオ、今日はご苦労だった。
依頼の件はきちんと処理しておくから安心しろ。
それとまだ飯食ってないんだったら付いてこい。
今日はお前たちに余計な手間をかけちまったからな。
俺が特別に奢ってやる。」
「ギルマス助かる!
お言葉に甘えてご馳走になります!」
「おう!
遠慮なんかしなくていいから好きなだけ飲み食いしてくれ。
それと帰るときには勝手に帰っていいからな。
間違っても挨拶なんかに来るんじゃねぇぞ?」
「はーい。
でもギルマスがそこまでするってことはもしかして?」
「よくわかったな。
当たりだ。
こいつは拾いもんだったぜ?」
「おぉ!
ってことは早速お願いすることもあるかもな?」
そう言うとヒースは俺の顔を見てニヤッと笑う。
ギルマスも何が楽しいのかニヤニヤしている。
俺にはさっぱりわからないが、こういうときには愛
想笑いと相場が決まっている。
「んじゃ行くか。
お前らついてこい!」
そう言うとギルマスを先頭に4人はさっさとギルドを出ていく。
職員の人たちも慣れたもので帰り支度をしている。
俺がリアさんを探すと、向こうも俺の方を見ていた。
少し恥ずかしくて、ペコリと頭を下げると、リアさんは微かに手を振ってくれた。
(あぁ、幸せ。)
幸せに浸っていると、リアさんが慌てて俺の後ろを指差している。
わかってます。
後ろからの圧が半端じゃないから。
「おい、誰に断ってくどいてんだ?」
そう言いながら首根っこを掴まれる。
これはあれか?
親猫が子猫を捕まえるときに首を咥えるやつか?
むしろ北海道の名品みたいなクマに捕まった鮭のような構図が近いか。
「いや、お世話になったのでご挨拶をと思いまして…。」
「いい心がけだな。
だがお前を世話したのはリアよりも俺やヒースの方だろ?
違うか?」
「仰るとおりで御座います。」
「よし、わかったら行くぞ?
それと次は拳骨じゃ済まんからな?」
「イエス、ボス。」
今度こそ大人しくついていくことにする。
あんな太い腕で拳骨喰らった日には、大してデカくもない俺の身長が縮んでしまう。
ギルドを出ると、町はすっかり暗くなっていた。
屋台のテーブルを囲んで談笑する人達、足早に過ぎ去る犬耳の男性、子供の手を引きながら笑顔のエルフっぽい女性。
見てる景色は同じようなものなのに、そこに登場する人達は俺の知っているものではない。
(あぁ、俺は本当にどこか違う世界に来てしまったのか。)
突きつけられる現実を見ながら、前を歩く大きな背中を見失わないように歩くことしかできなかった。
展開が遅くてすいません。
ゆっくり進んでいきます。
誤字、脱字、表現の問題等ありましたら、ご連絡をお願い致します。




