第3話 やっぱり此処は異世界だったわけで
俺が必死に煩悩と戦っていると、
「痛っ。」
ギルドマスターとぶつかった。
「…なにボーッと歩いてやがる。
どうせ碌でもない事考えてやがったんだろ?
ほら、ついたぞ。」
失礼な!と言いたいところだが、半分は正解なので言い返せない。
気を取り直して目の前を見ると、そこは真っ白な教会っほい建物だった。
「ラミアスさん、ここは?」
「ここはこの国の最高神殿だ。
それから俺のことはギルマスでいい。
変な呼び方されるとむず痒くて仕方ねぇ。」
「わかったよラミアスギルドマスター。」
「…次言ったら殴るぞ?」
「…殴った後に言わないでほしいな。
それで?
この神殿で俺は何をすればいいの?」
「ふん、そっちが素みてぇだな。
まぁそれでいい。
それで今からはこの神殿の司祭様に会ってもらう。」
「偉い人ってこと?」
「まぁそうだな。
そんなに固くならなくても、いい人だから心配すんな。」
俺は了解と告げてギルマスのあとに続く。
しかしよく考えたらこの格好はすごく不敬にあたるんじゃないだろうか。
この布の下マッパだし…。
まぁ今更どうしようもないので、大人しく階段を上がっていく。
何というか、ミニスカで階段を上る女性達の気持ちが少しわかったような気がした。
この先の扉は開いてはいけない気がする。
荘厳な扉の前につくと、ギルマスが受付みたいな人と少し喋っている。
なんとなーくその女性を見ると、祭服みたいなのを着ているけれど、ある部分だけパッツパツ。
もう何というか丸わかり。
(あぁ、死ぬ前にこの服を着たリアさんを見てみたい…。)
「おい、ほんとに死にたいらしいな。」
ものすごくドスの効いた声で目が覚める。
「…なんのこと?」
「言っとくが、お前が思ってること全部声に出てたからな?
うちの職員に手を出したら…わかってるよな?」
俺は黙って頷く。
「馬鹿なことばっかり考えてないで入るぞ。
ついてこい。」
受付のパッツンさんに一礼して部屋に入る。
ちなみにパッツンさんは、優しく微笑んでくれた。
どんなときも笑顔を絶やさない姿、素敵です。
部屋に進むと、大きなテーブルに一人の女性が座っていた。
説明されなくてもわかる。
後光が半端ないし、何やら光っておられる。
「お久しぶりですシスター。
本日は急な要件にも関わらず、お時間をいただき感謝申し上げます。」
「本当に久しぶりね、ラミアス。
それで、その子が例の?」
これまでの人生でここまでの美人さんは見たことがない。
完璧な造詣、見るものを包み込む微笑み、それに加えて神々しささえ感じてしまう存在感。
俺は思わず跪き、頭を垂れた。
「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいわ、ミカゲコウタさん。
その姿勢ではお話もできないから席にお座りくださいな。
ラミアスもお座りになって。」
「は、それでは失礼いたします。」
ちらりと横を見ると、ギルマスが借りてきたクマのように大人しく席についた。
だけど何というか、この人の発するオーラのようなものが圧倒的過ぎて、思わず傅いてしまう。
俺も一言、失礼しますと告げ、席につく。
「ある程度のことは視えました。
ただ、信じられないことも確かです。
あなたは本当にチキュウからやってきたの?」
いきなりの質問に俺は答えることができなかった。
(チキュウ?
地球って言ったのか?
地球から来た?
ってことはやっぱりここは地球ではない?)
俺が答えに詰まっていると、
「まずはお茶でも飲んでリラックスしましょうか。」
シスターはそう言って手元のベルを数回鳴らす。
奥の扉から数人の女性がやってきて、あっという間にティーセットの準備が出来上がった。
シスターが口をつけるのを待ち、俺とギルマスも口に入れる。
「なぜ、泣いているかしら?」
質問の意味が分からない。
俺は自分の顔に手を当てる。
俺は知らないうちに涙を流していた。
「これはね、魔法のお茶なのよ。
このお茶自体に味はなくて、口に入れた時にその人の記憶を呼び起こす効果があるの。
その人にとって一番幸せだった時の味になるのよ。
ミカゲコウタさん、あなたにはどんな味だったのかしら?」
シスターはそう言って俺の顔を見る。
その表情は慈愛に満ち溢れていた。
「…母さんと。
死んだ母さんと飲んだ味だと思います。
もう随分前の、家族3人でご飯を食べて、その時は初めて僕が料理を手伝って、失敗もしたけど、父さんも母さんも笑ってくれてて。
その時に飲んだお茶の味だと思います。」
「…そう。
辛いことを思い出させてごめんなさいね。」
「いえ、ありがとうございます。
もう父さんにも母さんにも会うことは出来ないけれど、こうして記憶の中で2人が笑っていてくれるのなら、こんなに幸せなことはありません。」
「そうですか。
そう思えるのならあなたは強いのね。
想いは力になりあなたを支えてくれます。
どうかその力がこの世界のためになることを、私は祈っていますよ。」
「シスター、やはりこの者が?」
「えぇ、ラミアス。
あなたにもはっきりわかるようにお見せしましょう。」
そう言うと、シスターは一冊の本を取り出した。
「ミカゲコウタさん、この本のどのページでもいいから読んでくださらない?」
そう言うとシスターの持っている本が音もなくテーブルの上を滑り、俺の前で止まった。
俺は適当なページを開いてその文字を読む。
『「カツ丼」のレシピ 1人前
ご飯丼1杯分
豚カツ1枚
玉ねぎ1/4個
卵2個
水50cc(大さじ3強)
醤油大さじ1
みりん大さじ1
酒大さじ1
砂糖小さじ1.5
だしの素少々』
何てことはない、普通にカツ丼の材料だった。
これなら俺はレシピなんて見なくても作れる。
次のページを開くと、調理の仕方が載っている。
やはり作り方にもこれといった違いはない。
あえて言えば俺は時短のためにめんつゆと昆布茶で楽する派だ。
「えっと…これが何か?」
俺は不思議に思い聞いてみる。
ギルマスは驚愕して目を見開いている。
シスターは少し嬉しそうだ。
「その本はね、私達には読むことができないのよ。
それは数百年前にこの世界に突如現れた、後に勇者と呼ばれる方が書いた門外不出の本なの。
その本に何が書いてあるのかは、この世界最大の謎とも言われているの。
でもあなたは苦もなくその謎を解いてしまった。
まさか伝説の本がお料理の本だったなんて…。
世界でも有数の学者達が集まって、長い間議論していたのに…。
でもね?
私達には今貴方が教えてくれた内容が、本当なのか嘘なのかを検証する術すらないのよ。
きっと国王様にこの本の内容をお伝えしたところで、信じてはくれないと思うわ。
だってそれは今のところ貴方しか読めないのだから。
だから貴方が仮に嘘をついたとしても、それは誰にもわからない。
たとえ真偽石を使ったとしても、判断はできないかもしれないわね。
それにあれだけ頭を抱えてた学者の方達が内容を知ったら…ププッ…もうダメ!
ごめんなさい!笑いをこらえるのが、つ、辛くて!」
そう言うとシスターはお腹を抱えて笑いだした。
ギルマスはすごく頭を抱えている。
…そんなに強く握ると潰れない?
「はーー、はーー、あー可笑しかった。
こんなに笑ったのなんて何年ぶりかしら。」
「あの、勇者様からはこの本について何も聞いてはいないんですか?」
俺は素直に思ったことを聞いてみた。
だってその本の表紙にデカデカと
『俺のレシピ〜丼物編〜』
って書いてあるしね。
シスターは深呼吸しながら答えてくれた。
「これは勇者様が突然姿を消した後に見つかったの。
突然現れた女性がこの本を差し出してくださったのだけれど、私の眼にもこの本の所有者が勇者様になっていてね。
その方も勇者様と血縁があるところまでは視えたのだけど、それ以上のことは分からなくて…。
そんなことって初めてだったから私も驚いたのだけど、勇者様ならそれもできるかもって納得してしまったわ。
勇者様の子孫と呼ばれる方たちは、剣姫、賢姫、聖槍士、聖斧盾士の4英傑が有名なのだけど、本当は何人いるのかなんて誰も分からないの。
だって勇者様は魔王を倒すために世界中を旅されたのだから。
エルフの国やドワーフ王国、海底神殿や天空城、竜王の谷で色んな無理難題を克服して、魔王を倒すための武具や仲間を集めたと言われているわ。
それに隣の帝国や獣王国にも行っているのだから、そこで大事な人を作ったとしてもおかしくはないでしょ?」
マジか勇者!?
どれだけ頑張ったんだよ…。
だが言われてみればシスターの言葉には納得できる。
納得できるんだけどもしかして…。
「つかぬことをお聞きしますが、シスターはひょっとして勇者様にお会いになったことが?」
「えぇ、もちろんあるわよ?
さっきの話にも出たけれど、剣姫様を視たのは私ですから。
それに勇者様御本人にもお会いしたことがあるわ。
まぁ私はその頃まだ子供だったから、遠くからお見かけしただけなんだけど。
それでもはっきりと覚えているわ。
吸い込まれるような黒い髪、精悍なお顔、光り輝く鎧に包まれたあのお姿は、幼い私には刺激が強すぎちゃって…。
きっとそんな女性は世界中に居るはずよ?」
マジか…。
え?
じゃあシスターっていまなんさ
(アバババババ)
…なんか体中に電気走った。
見たらシスターがニッコリしてる…。
すいません、余計なことは考えません。
「ちなみに私はエルフだから、もともと長生きの種族なのですよ?
エルフの中では若いほうてすから、そこらへんを忘れたらダメですよ?」
俺は黙って頷く。
横を見るとギルマスが面白い顔してる。
まさか知らなかったの?
これって大事件なんじゃ…。
おっと、鋭い視線が刺さったぜ。
落ち着け俺。
はい、深呼吸。
「んんっ。
ではミカゲコウタさん、そしてラミアスギルドマスター、貴方達に神のご加護がありますように。
そしてラミアスは大変でしょうが、この世界の事を彼にきちんと伝えてくださいね。
それと今日の事はくれぐれも誰にも話さぬように。
天罰が下ることが無いようお気をつけください。
もし何か困ったことがあったら、また会いに来てくださいね?」
なんかすごく強引にお纏めになったな。
最初の頃の神々しさは何だったんだろう。
ギルマス青い顔で必死に頷いてるし。
ウケる。
魂の抜けたようなギルマスと共に部屋をあとにした俺達は、奥の方の祭壇がある広い部屋に向かう。
ここで神の神託を受けることができるらしい。
俺は光が差し込む部屋の中央へと入っていく。
光り輝く神の像があり、その姿は男性にも女性にも見える。
神々しいという言葉がぴったりだ。
それにしてもこの像なんだか気になるな…。
「ここで神託を受けることができる。
簡単に言えばそいつがどんな職業に向いてるか分かるってことだ。
だが、必ずその職に就けってわけでもねぇ。
魔術に適正があるなら魔術士や魔法士なら向いてるが、剣持って戦ったりは厳しいってこった。
その逆も当然だ。
こればっかりは神様が決めることだから俺たちにはどうしようもねぇな。
ちなみに非戦闘系のスキルでも、心配はいらねぇ。
まぁものは試しだ。
その像に祈りを捧げてみろ。」
そう言うとギルマスは神像の前を指差す。
俺は頷いて指定された場所に行き、祈りを捧げる。
体の芯から暖かくなり、意識が朦朧としたところで頭の中に優しい声が聞こえる。
『ミカゲコウタ、あなたの適正はポーターです。
これからも神のご加護があらんことを。』
ゆっくりと目を開く。
意外とシンプルなもんだな。
しかし体の中から力が溢れる感じがする。
「終わったか?
とりあえずステータスオープンって言ってみな?」
「ステータスオープン。」
すると、目の前に文字が現れる。
ミカゲコウタ 18歳
称号∶異世界人
男 レベル1
天職:ポーター 1/5
腕力:30
体力:40
耐性:30
敏捷:30
魔力:10
魔耐:30
スキル:言語理解、調理、採取、解析、解体、収納、危険感知、幸運、電耐性
会話ができてることになんの疑問も持たなかったけど、どうやら言語理解のスキルのおかげらしい。
調理や採取、解体とかは今までさんざんキャンプやってたからだろう。
収納は…整理整頓が癖になってるからかな?
危険感知も何となくわかる。
危ないと思ったときにはもう遅いってことが今まで多々あった。
何となく嫌な予感がするってのは大切なことなんだ。
それにしても幸運?
これまでの人生わりと不幸続きだったぞ?
現在進行系でこんなところに居るわけだし。
雷耐性?
さっきのビリっときたやつかな?
それともリアさんを見たときに痺れた感じがしたから?
シスターのは今後も御免被りたいが、リアさんになら悪くない気がする。
でもあれで耐性なんかつくの?
山でアシナガに刺された時の方が痛かったぞ。
「見えたか?
ステータスは他人には見えないようになっている。
まぁ見られたら大変なこともあるからな。
お前も簡単に教えたりするんじゃねぇぞ。」
「あぁ、わかった。
能力のところに数字があるんだけど、どれくらいが普通なの?」
「そうだな…。
一般的には20もあればなんとかなる。
適性がなければ0、低いやつが10、最初ならどんなに高くても50ってとこだろう。
適正が剣士でも魔力が高ければ魔法剣士になれるし、体力と耐性があれば盾役を選ぶやつが多い。
あとは天職も最初からレアなもんもある。
さっきも話に出た勇者様は最初から能力が80以上あったって伝説があるくらいだ。」
へぇ、そうなのか。
俺のはどうなんだろう。
ポーター?
運び屋?
「ちなみにギルマスのジョブはどうだったんだ?」
「俺か?
俺は最終的に拳闘士だったな。
ただ、魔術の適性がなかったから肉弾戦オンリーだったけどな。
これでも一応元ゴールドランクだ。
最初は拳士だったが、経験積んでいくと上位職になる場合もある。
まぁ俺の場合は運が良かったんだろうな。
上位職に上がる理由はわかってはいないが、一般的には経験とスキルだって言われてる。
まぁ詳しいことは追々説明してやる。」
うん、すごく納得。
やっぱりこの体は業務用だったみたいだ。
「それで?
お前はどうだったんだ?」
「俺?
俺はポーターになってるよ。」
「マジかよ?
大当たりじゃねぇか!」
「そうなの?
わかんないんだけど、これってどんな事すればいいの?」
「職種としてはそんなに珍しいもんでもないんだが、こいつはとにかく特殊でな。
まぁ説明すれば長くなるし、ちょうどいい時間だ。
この世界の説明もシスターから頼まれてるし、どうせなら飯でも食いながら話してやる。
先ずは…着替えだな。
とりあえずギルドに戻ってお前の着替えを受け取れ。
宿は俺が案内してやる。
お前は成人してるみたいだが、酒は飲めるのか?」
良かった。
服のこと忘れられてなかった。
どんな仕組みなのか分からないが、今着てる貫頭衣はそこそこ温かい。
だけどこれで食事はしたくない。
倫理的に…ね。
「酒は飲んだことないけど俺は今18歳だよ。」
「じゃあ問題ねぇな。
この国では15から成人だ。
他の国もそれぞれで違うけど、そのへんも追々説明してやる。
んじゃ戻るからついてこい。」
そう言うと、ギルマスはまたノッシノッシと歩いていった。
さっき受付にいたパッツンさんに一礼して建物を出る。
うーん、弾け飛びそう。
宅飲みしだすとこんなに楽なものはないと思いました。
面倒くさがりなので、大きい水筒に氷と水を入れて冬でも水割りです。
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