第1話 銃王国?なにそれ怖い…
懐かしい夢を見た。
どれくらいの時間が経ったんだろう。
外に出ると空が赤くなっていた。
(夕方…だよな。
まさか朝ってことはないと思うけど…。)
空気が冷やりと感じる。
携帯電話を見ると、電池切れなのか電源が入らない。
(雨に濡れて壊れたのか?
変えたばっかりなのに最悪だ。)
とりあえず下山しようと歩き出す。
だが周りの景色に違和感を覚える。
(こんなに草が生えていたっけ。)
もともと整地された訳では無い山道なので、雑草は生えていた。
しかし俺の背丈を越えるほど伸びていた記憶はない。
(道を間違えたかな?)
普段通っていた道から外れたのかもしれない。
だけどここは昔から知っている山の中だ。
降りていけばどこかの道には出られるはず。
そう思いながら道なき道を降りていくと、ようやく目の前が開けてきた。
「……は?」
つい間の抜けた声が出てしまったのも仕方ないと思う。
目の前はコンクリートで整備された道路ではなく砂利道。
しかも馬の蹄のような足跡と、車輪のような轍。
何より驚いたのが、先の方にいる黒くて大きい犬。
これだけ離れていて大きさがわかるのなら、あの犬はかなり大きいはずだ。
(野良犬?
にしてはデカくないか…。
っていうかめっちゃ唸ってるんですけど…。)
でっかい犬は少しずつ俺の方に近付いてくる。
(これあれかな?
狼かな?
でもニホンオオカミって絶滅したよな?
もしかしてここに生き残りが?
やべぇ…。
歴史的発見じゃね?
ってかここがどんなに田舎って言っても普通に民家あるぞ?
電車も通ってるし。
1時間に1本だけど…。)
この間わずか0.1秒。
現実逃避した俺をゆるしてほしい。
でも仕方ないと思う。
だってそのでっかい犬が、すごい勢いで飛び掛かってきたところだったから。
「うぉぉぉぉおぉぉ。」
後ろに下がった時に躓いて尻餅をつく。
犬は勢いをつけすぎたのか、俺の頭の上を通過した。
(で、でかすぎるだろう…。
隣の家のゴールデンレトリバーよりデカいとか。)
なんてことを思っていたら、犬は着地したあと体勢を立て直してすぐにこちらを向く。
(待て待て待て、今立ってたら普通に首チョンになってたんじゃ…。)
人間本当に焦ると無駄なことを考えるのかもしれない。
(野良犬に噛まれて死亡とか嫌すぎるだろ…。)
何とか体勢を立て直した俺は、慌ててレインバッグに手を突っ込む。
(取り敢えず何かなかったか…。)
固くて丸いものが手に当たる。
(蜂撃退スプレー!?
蜂じゃないけどっ!)
犬に向かってスプレーを噴射する。
これは高いところ向けなので、5メートルは飛ぶはず。
突然の煙に驚いたのか、犬は少し距離を取る。
かなり嫌がっているのか、頭をしきりに振っている。
(取り敢えずどっか行ってくれー。)
スプレーを噴射し続けたら、だんだん勢いが弱くなってきた。
(やっべーーーー…。)
そりゃ去年の秋に使ったやつの残りだから切れるのは当たり前だよ。
小屋の近くにアシナガバチが巣を作ってたから、これで取り敢えず対処して、そのまま忘れてたやつを今回持って帰ろうと思ったのだ。
犬は怒ったのかヨダレを垂らしながらこちらに向かってゆっくりと近付いてくる。
(クソ!)
スプレー缶を思いっきり犬に向かって投げる。
だが、犬は飛び上がって缶に噛みつく。
「あ…。」
と思ったときには遅かった。
犬は勢いよくその缶を食い破り、火花が散ったのかスプレー缶が破裂した。
犬は顔から血を流しながら、走り去っていく。
(うわぁ…。
やっちまったかも。)
飼い犬ではないと思うが、万が一飼い主が文句を言っていた場合のことを考える。
(仕事クビになるのかなぁ。
まだ出社してないのにクビもないか。
内定取り消しかぁ。
でも危なかったし仕方ないよなぁ。
こんな田舎でも誰が見てるかわからないからなぁ。)
とりあえず怖いので犬が去った方と逆方向に歩き出す。
見覚えはないが砂利道に轍は付いてるし、これは荷車かなんかの跡かもしれない。
(馬の蹄跡なんて見たことないけど、馬なんてこの辺りにいたかなぁ。)
そんなことを考えていると、目の前から数人の人が歩いてくるのが見える。
(この辺りの人かな。)
とりあえず挨拶は必須。
誰と誰が知り合いがわからないし、田舎のネットワークはSNSを凌駕する(ことがある)。
誰々さんとこのなんとかは挨拶もできんなんて言われたくはないのだ。
すれ違いざまにコンニチワと声をかけて頭を下げる。
(すごく変な目で見られたな…。
俺そんな変な格好してるか?
でもさっき砂利を転がったし、汚れてるのか?)
すれ違って少しして冷静になって考える。
(は???)
鎧…だよな?
ゲームなんて昔やった記憶しかないけど、あれはまさにゲームとかに出てくるようなやつ?
コスプレ?
こんな田舎で?
剣とか杖とか持ってたけどあれも?
めっちゃガチャガチャいってて重そうだったな。
(見間違い?)
とりあえず後ろを振り返る。
うん。
すっごい目があった。
向こうの3人も俺を見てる。
え?
俺がおかしいの?
どう考えてもおかしいのはそっちじゃない?
そんな宇宙人を見るような目で見られても…。
とりあえずパニック。
パニックです。
なんか剣持ってる人が構えながらこっちにゆっくりと歩いてくる。
後ろの二人は弓とか杖を構えてる。
俺が敵ですか?
これなんかの企画?
テレビとかあんまり見ないけど、ドッキリってやつ?
おじさーーーん、助けてーーー。
「おい!
お前は何だ?
何でこんなところにいる?」
あぁ良かった。
とりあえず言葉は通じるらしい。
これが外国語だったら会話できないところだった。
「何だと言われても…俺の名前は御影紘汰。
近くに住んでる18歳。
今はキャンプの帰りで、でっかい犬に襲われたからこんなに汚れてるけど、怪しいものじゃないですよ?」
俺の人生初の怪しいものじゃない発言。
誰でも一度は目にしたことがあると思うけど、実際使ったことがある人は少ないと思う。
「ミカゲコウタ?
変わった名前だな。
もしかして貴族なのか?
それにしちゃ変な格好だな。
とりあえず言葉は通じるみたいだな。」
そう言うと、男は後ろの2人に軽く手を挙げる。
2人はそれを見て、訝しみながら武器を下ろした。
(ふぅ、怪しまれるのは気分のいいもんじゃないな。
しかしこの3人は何なんだ?)
「あなた達はなんですか?
この辺でコスプレ大会でもあるんですか?
自分で言うのもなんですけど、この辺は大きい建物なんか無いですよ。
それとも自然の中で撮影するつもりなんですか?
一応この裏の山は俺の知り合いが所有しているので、使うなら俺から伝えときますけど。」
「は?
おまえは何を言ってるんだ?
この辺に来る冒険者って言えば、行先は王都大迷宮しかないだろ?
それにしてもおまえはなんでそんな格好してるんだ?
そんな装備じゃその辺のゴブリンにも殺られちまうぞ。
いくら王都周辺は魔物が弱いって言っても、この辺はワーウルフとかがウロウロしてるってのに。」
ちょっとまて、この人今なんて言った?
王都?迷宮?ゴブリン?ワーウルフ?
ゲームでしか聞いたことがない単語がいっぱいだ。
あれか?
ドラマの撮影か?
カメラはどこだ?
ドローン?
スタッフは?
誰か説明できるやつでてきてくれ!
「ちょ、ちょっと聞いていいですか?」
混乱しまくった俺は3人に慌てて話しかける。
「な…なんだ?」
いかにも怪しい人を見た感じで、3人は少し後ずさりながら答える。
「ここは何処で、あなた達は誰で、今日は何月何日ですか?」
「は?何言ってるんだ?」
「お願いします、教えてください。」
「…ここは王都の外れで、王都大迷宮に続く林道だ。
俺達は冒険者で俺は剣士のヒース、後ろにいるのは弓使いのシャオと魔法士のミリー。
あとなんだっけ?
あぁ、今はアルズレーン王歴338年、雨の月だ。
これでいいか?
それで、あんたはなんでこんなとこにいるんだ?
見たところ怪我もしてないようだが。」
今度はももっと知らない単語が出てきた。
あるずれーん?
おうれき?
あめのつき?
(一体何がどうなってるんだ…。)
頭が痛い。
頭痛がすごい。
立っていられない、足に力が入らない。
突然座り込んだ俺に、3人はさらに警戒を強める。
なんとか顔をあげると、ミリーと呼ばれた女の子が杖を持ってなんか聞いたことのない言葉を発している。
「俺はいったいどこにいるんだ?
おうと?
ここは日本だろ?
あめのつきってなんだよ…。
今日は3月20日だろ?
ここはどこなんだよ…。
悪い冗談なんだろ?
夢ならもういいから覚めてくれよ…。」
そうだ、来た道を戻れば帰れるんじゃないか?
山に戻って洞穴に入って、そこでとりあえず寝てみよう。
これが夢なら覚めるはずだ。
そう思いながら後ろを振り向くと、山がなかった。
何を言ってるかわからないと思うけど、俺にもさっぱりわからない。
あったはずの山がなくて、後ろには平坦な林道が広がっている。
「いや、お前ほんとに何言ってんだ?
山なんてこっから300キロ以上離れたとこにしかないぞ?
それにそっから先は獣王国で、俺たちでもすぐに殺されちまうぞ?
というかお前ほんとに大丈夫か?
頭を強く打ったんじゃねぇか?」
(山がない?
銃王国?
何だその物騒な国…。
アメリカか?
それともどっかの外国か?
いや、日本は島国だよな。
300キロ?
300キロってなんだ?
コイツラ何いってんだ?
おかしいのは…俺か?
俺なのか?
誰か助けてくれ!
もう何がなんだかわかんねーよ!!)
突然目の前が真っ暗になる。
そこで俺の意識は途切れた。
寒い日が続きますね。
19時にもう一話投稿します。
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