第14話 迷宮3
なんとかここまで来たな。
眼前には20階のボスフロア。
今はその前の開けた場所にいる。
「ヒース、どうやら当たりを引いたかもしれない。
わかってると思うけど、充分注意してくれ。」
俺の頭の中に、危険感知がガンガン鳴り響いている。
本来ならばここで切り上げるべきなのかもしれないが、物資が十二分にあることや、魔力、武具の損壊もないことから、ヒース達は続行を決断した。
「あぁ、わかってる。
何が出るかわからんが、コータも注意してくれ。
多分だが、お前を守りながらなんて余裕はなさそうだ。」
ヒースたちも分かっているのだろう。
だが、ポーターの依頼料ははっきり言って高い。
毎度毎度呼ぶことはできないから、呼んだときは最大限の成果を出さなければならない。
「もちろんだ。
じゃあ入る前に、みんなこれを飲んでくれ。」
俺は3人に特製ドリンクと丸薬を渡す。
「これは?」
シャオさんが訝しみながら飲み物を見る。
「特製の栄養剤ですよ。
効果は身体強化と魔力強化、それにちょっとした手を加えてあります。
それと不眠の丸薬。
扉を開けたらすぐに強制催眠の薬を使います。
不眠の丸薬で眠ることはないと思います。」
「またそんなさらっと凄いものを…。
でもありがとな。」
そう言ってヒースは一気に飲み干す。
2人もおずおずと飲み干すが、味は悪くないはずだ。
「これの効果はだいたい30分。
難しいかもしれないが、できればその時間内に頼む。
」
「こっちはいつでも行けるぞ。」
ヒースはそう言ってミリーさんとシャオさんを見る。
2人も決心したように頷く。
「よし、行くか。」
俺は戦闘スキルを全開にして扉に手をかける。
部屋の中は真っ暗だった。
「ミリー、灯りを頼む。」
ヒースがそう言って、ミリーさんが光魔術を使うと、部屋が幾分か明るくなる。
その時俺の中で過去最大の警報が鳴り響いた。
(誰だ!?誰が狙われてる!?)
考えるよりも早く、俺たちの間を無数の矢が奔っていく。
ドスドスっと命中した音がして、一人が床に倒れ伏した。
「「「ミリー!?」」」
灯りをつけたことで逆に目標になってしまったのだろう。
ミリーさんは身体に無数の矢を受けて伏していた。
「ガァァァァァァ!
よくもミリーを!」
ヒースが怒りに身を任せて飛び出していく。
ミリーさんが倒れたことで、放った光の余裕は幾許もない。
俺はすぐさま強制催眠の薬を噴霧し、敵を眠らせにかかる。
部屋が大きければ充満するまで時間がかかるだろうが、風魔術で奥の方に押し出しているので、少しは早く効果は出るはずだ。
数体の魔物が倒れる音がしたあと、剣戟の音が響く。
「シャオさん!
火矢を周囲に打ってください。
こう暗いと状況が把握できません。」
シャオさんも同じことを考えていたのか、矢に火魔法を乗せて周囲に放つ。
状況は最悪のようだ。
ヒースと斬り合っているのはオークだが、身長は3メートル近くありそうだ。
それに不気味な鎧を着込んでおり、どうやら状態異常耐性がついているらしい。
ほかのオークは倒れており、シャオさんの放った火矢により燃えている個体もいる。
しかし数が多すぎる。
ざっと見た感じ、30近くはいると思う。
見える範囲でこれだから、もしかしたら奥の方にもいるのかもしれない。
通常ならミリーさんが援護と牽制をかけながらヒースが仕留めるが、今はそれができない。
それに加えシャオさんの矢には限りがあるため、弾切れだけは防がなくてはいけない。
俺は収納から矢束を数個取り出してシャオさんに投げ渡す。
「シャオさん!
できるだけ周囲に寝ている奴らを狙って火矢を打ってください。
それと可能な限り奥の方までお願いします。
俺はヒースの援護に回ります。」
シャオさんは頷いて、すぐに火矢を数本まとめて放つ。
俺はナイフを構えてヒースのところに急ぐ。
知識の泉から最適行動を算出し、ナイフに電気を纏わせる。
これが俺の取っておきの雷装。
充電するのに時間が掛かるし、その後動けなくなるから使いたくはなかったが、身体に電気を纏うことで身体能力を爆発的に上げる能力。
雷耐性が進化して使えるようになった裏技だ。
コローネさんとの修行の際に閃いたが、使用時間が10分を越えると強制的に動けなくなってしまう。
だけど今はそんなことを言ってられない。
ヒースまで失うわけにはいかないんだ。
雷装をナイフにまで浸透させ、道すがらに倒れているオーク共にとどめを刺しながらヒースのもとに近づく。
完全に頭に血が上っているらしく、ヒースは目の前の敵しか見えていないようだ。
ヒースの脇をすり抜けて巨体オークと対峙すると、威圧で尻込みしそうになる。
「ヒース、まずは落ち着け。
気持ちはわかるが、このままじゃ全員殺られるぞ。」
ヒースの握りしめている県の柄から血が流れている。
頭ではわかってはいるんだろう。
シャオさんもミリーさんを守るかのように、ミリーさんの前面に立って矢を放ち続けている。
「ヒース、時間がないから端的に言うが、こいつは俺に任せてほしい。
これは長く持たないし、時間をかけすぎると全てが手遅れになってしまう。
仇を打ちたい気持ちはわかるが、ここは俺に任せてくれ。」
ヒースは怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったような悲しい顔をして、それでもしっかりと頷いた。
「おいデカブツ、こっからは俺が相手してやる。」
俺は雷装を全開にして、オークに構える。
オークは巨大な剣鉈を振りかざす。
これだけの巨体が振り下ろす剣鉈だ。
普通なら受けきれずに潰れるか、剣ごと真っ二つだな。
だが今の俺は雷に近い電流を纏っているのと同じだ。
雷はおよそ3万℃。
そこまでは無いが、今の俺なら鉄や鋼くらいなら両断できるほどの熱を帯びている。
ナイフは雷を纏って青白く輝いている。
剣鉈を真っ二つに切り裂き、返す刀で腕を切り落とす。
一瞬の超高温に、何が起きたか分からなかったのだろうが、切り落とされた自分の腕を見たオークは、初めてその顔に恐怖を覗かせた。
「遅い!」
ナイフを横一文字に振り抜き、飛翔させた雷でオークの首を切り落とす。
首は刎ね落とされ、巨体は大きな音を立てて崩れ落ちる。
雷装状態のまま周囲のオークの首を刎ね、
「ヒース、急ぐぞ!」
と言ってミリーさんのもとに駆け寄る。
(頼む、効いててくれよ。)
もうすぐ薬が切れる時間だ。
ミリーさんの周囲は血の海になっており、目は半開きの状態になっている。
誰がどう見ても助からない状態の中、ヒースがミリーさんの手を取る。
「ミリー…、ごめんな。
俺がちゃんと守ってやれれば…。
まだお前に言いたいこといっぱいあったのに…。
ずっとお前と一緒にいたかったのに…。」
シャオさんは大粒の涙を流しながら、目を背けないよう必死に2人を見つめている。
広い部屋にはヒースの嗚咽だけが静かに響いた。
今年も残すところあと僅かですね。
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