第12話 迷宮1
「ここを右に曲がれば生体反応2、感じから人間ではなさそうだ。
左に曲がれば…4か。
こっちはべつのパーティーみたいだな。」
「よし、じゃあ右で。
わざわざ他の奴らと会うこともないだろ。
右の2つはどんな感じだ?」
「はっきりとは言えないが、おそらくゴブリン系の小型魔物だな。
二本足だから獣ではなさそうだ。」
「了解、さっきのはまだいけるか?」
「あぁ、あれぐらいでいいならあと200は余裕だな。」
「はは、そんなに居るならこっちが持たねぇよ。
よし、シャオ、ミリー、行くぞ。」
2人は無言で頷く。
俺は水魔術の応用で霧を短所的に発生させる。
この霧の中には睡眠誘発効果のある薬を予め混ぜておいたものだ。
1分もしないうちに倒れた音がしたので、風魔術で霧を霧散させてから近づく。
眼の前には2匹のゴブリンが眠りについていた。
「全くでたらめな使い方だよな。」
ヒースが呆れながらゴブリンの魔石と討伐証明部位の耳を切り取る。
1階に入ってすぐにスライムやホーンラビットが現れたので、今のやり方を実践した。
3人は、戦闘準備をしているところだったが、さっさと眠らせてそのことを伝えると目を丸くしていた。
曰く、魔獣のホーンラビットはともかく、核しか持たないはずのスライムが眠るのはおかしいらしい。
「へぇ、でもそれは誰か試したのか?」
「いや、試したやつはいないと思う。
わざわざ試そうとも思わないだろうしな。
スライムは物理攻撃には強いが魔法には極端に弱い。
だから火魔法ですぐに倒せるんだ。
だからわざわざ改良魔術を試したものはいないと思うぞ。」
「そういうもんか。
まぁ効果があったからいいよな?
俺のスリープは強いみたいだし、これならノーリスクで狩れるだろ?」
「あぁ、まぁな。
魔力も無駄にならないし、短刀を使うから俺の剣が傷むこともない。
それにホーンラビットの皮はそこそこいい値段で買い取ってくれるんだが、傷つけちまうと半値以下になるんだ。
これならきれいに剥ぎ取れる。」
ヒース達は器用にホーンラビットの皮を剥いでいく。
俺もコローネさんとの特訓中に何度も試したが、なかなかきれいにできなかったので、この魔術を思いついたんだ。
肉と皮、魔石を預かり収納スキルに放り込む。
これで肉劣化することはないから持ち運びも楽ちんだ。
「よし、どんどん行こう。
次はどっちだ?」
俺は魔力感知をフルに使い、頭の中に入れておいた地図と照らし合わせる。
「右が近道だけど、生体反応が…6かな。
どうやら戦闘中のパーティがいるみたいだ。
左は…何も反応がないな。
少し遠回りだけど、こっちに行こう。」
3人も異論はないみたいで頷いてくれる。
状況把握を使いながら罠を察知して、見つけたら罠解除で解除していく。
こうして特に危険もなくあっという間に10階の扉の前まで辿り着いた。
扉には魔力で封印がしてあるらしく、開きそうにない。
「どうやら先客がいるみたいだな。」
「先客?」
「あぁ。
迷宮はだいたい10階ごとにボス部屋と呼ばれる部屋がある。
そしてその中は基本1パーティーしか入れない。
これは諸説あるが、迷宮は生き物で、死んだ人間を喰らって大きくなると言われている。
そのための番人として存在するのがフロアボスだ。
10階のフロアボスはオークだったな。
そして、これは長年の謎なんだが、フロアボスの素材は持ち帰れない。
討伐証明はフロアボスが使ってる武器や防具だ。
何を落とすかはランダムだが、運がいいと魔石が落ちることがある。
こいつはかなり高値で売れるし、大きくもないから当たり素材だな。
逆にアックスとか大盾の場合は重くて仕方ないから困るんだ。
そしてフロアボスを倒した先にはセーフティゾーンがある。
ここはなぜか魔物から襲われることはないし、地上に戻るならワープポイントも発生する。
まぁ餌にならないやつは追い出そうってことなのかもな。」
なるほどね、随分と親切設計なわけだ。
しかし運が良ければ、か。
俺の幸運が働いてくれるかな?
そうこうしていると、扉が音を立てて開いた。
「よし、行くぞ。
準備はいいな?」
ヒースはミリーさんとシャオさんに確認する。
2人は黙って頷き前を向く。
「コータ、ここまで俺たちは楽をさせてもらったから、こっからは俺たちの番だ。
オークに梃子摺ることはないが、一応用心はしておいてくれ。」
「わかった。
だけど、俺のことを心配する必要はないよ。
自分の身は自分で守れるくらいには強くなってるからね。
それよりもそっちも十分気をつけてくれ。」
俺とヒースは顔を見合わせて頷く。
そして4人でゆっくりと部屋に入っていった。
部屋の奥に大型のオークが一体。
一応状況把握を使ったが、罠らしきものはない。
「ヒース、罠はなさそうだ。
あとは頼むぞ。」
「了解!
ミリー、シャオ、いつもどおり行くぞ。」
そう言うとヒースは走り出す。
ミリーさんは詠唱を始め、シャオさんは牽制で矢を放つ。
オークは見た目によらず精細な動きで矢を弾いているが、切り掛かったヒースに足の腱を切られて蹲る。
そこにミリーさんが火魔法を打ち込み、これが見事に顔面にヒット。
怯んだところをヒースが首を切り落として戦闘は終わった。
全く出番がなかったな。
しかし3人はずっと組んでるおかげか、いい連携がとれている。
見ていて危なげなかったしな。
「おつかれさん。
いい連携じゃないか。」
「まぁこれくらいならな。
ミリー、シャオ、大丈夫か?」
2人も特に何もないみたいだ。
じゃあこっからは俺の仕事だな。
オークの体は液体状になって地面に吸い込まれていく。
このあと俺たちが部屋を出れば、勝手に復活するらしい。
オークの体があったところには、外套だけが残った。
「マントか。
ハズレじゃないけど、当たりとも言えないな。
まぁ今回はコータがいるから邪魔にはならないし、悪くはないか。
じゃあコータ、頼むぞ。」
そう言って俺にマントを渡してくる。
俺はそれを収納スキルに突っ込んでから、
「じゃあこの先のセーフティゾーンで食事にしよう。
なにかリクエストはあるか?」
と、確認した。
ヒースとシャオさんは首を振ったが、ミリーさんが温かいスープをご所望だったので、軽く食事を摂ることにする。
収納スキルから鍋とマグカップを取り出して、スープを注ぐ。
これは数日前に作っておいた、生姜っぽいものと、鶏肉っぽいもの、それに野菜を刻んだものを入れておいた特製スープだ。
鶏と野菜で出汁を取ってあるし、味見してもかなり美味しかったから満足してもらえるはず。
それに昨日の朝からパン屋の開店と同時に買った、焼き立てパンを添える。
全員に行き渡ると、ヒースが溜息をついた。
「これだけでお前を雇ってよかったと思えるよ。」
俺は大袈裟だなと笑ったが、他の2人も真顔で頷いている。
「いつもはだいたい干し肉、水だけのこともある。
温かいスープなんてありえない。
しかもパンも焼き立て。」
シャオさんがすごく嬉しそうにスープを飲んでくれる。
そういえばこの人がこんなに喋るのは初めてだな。
「あれ?
このスープ……、なんだか普通のスープじゃないですよね?」
お?
ミリーさんは気付いてくれたみたいだな。
「実はそうなんだ。
このスープには体力回復の効果が出るようになってる。
俺も原理はわからないんだが、完成したら閃いたんだ。
多分素材とかそういうのが関係してるとは思うんだけどな。
まぁ他にもあるから、楽しみにしててくれ。」
俺が説明したら、3人は面白い顔になった。
「そう…か。
ある程度お前が非常識だってのは理解してたつもりなんだが…。
ちなみに教えておいてやるが、料理にそんな効能出せるやつなんて、少なくとも俺たちは聞いたことないからな。
上位ランカーのごく一部なら知ってるかもしれんが、悪いことは言わん。
このことは言いふらさないほうがいいぞ。
それこそ料理の概念まで変わっちまうからな。
もちろん俺たちも他言はしない。
だけど代わりに偶にでいいから飯を作ってくれ。」
「わかった。
助言助かる。
だけどそんなことでいいのか?」
「あぁ、充分過ぎるほどだ。
はっきり言ってこのスープは旨すぎる。
これだけでも王都に店が出せるんじゃないかってくらいな。
本音を言えば、店を出していつでも食えるようになって欲しいんだが、お前はポーターとして優秀過ぎるんだ。
その力が無くなるのは世界の損失に近い。
だけどこのスープが飲めなくなるのも世界の損失だ。
だから間を取って偶に飲ませてくれりゃあいいさ。」
そこまで喜んでくれたなら俺も嬉しい。
だけど世界の損失は些か言い過ぎだな。
俺としても納得の味だったが、それもこれもスキルありきの話だ。
褒められて悪い気はしないけど、褒められ過ぎるとなんだかむず痒くなってしまう。
「わかった。
スープはいろんな種類を作って保管しておく。
幸い俺のは時間経過しないからな。
いつでも好きなときに言ってくれ。」
そう約束すると、3人はハイタッチして喜んでいる。
これだけ喜んでくれるのなら、もっと沢山の種類を作っておこう。
こうして暫しの休息は過ぎていった。
田舎に住んでいるので移動は基本車です。
雪の日に3回転して死にかけたことがあるので、雪予報は緊張しますね。
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