第8話 後悔は先に立たないし、口から出た言葉は飲み込めない
俺はリグランド公国の歴史や勇者の話をコローネさんに教えてもらった。
すごいな勇者様。
3回逆立ちしても同じ事はできそうにない。
漫画や小説、ゲームなんかでも、世界を救った勇者はお姫様と結ばれたり、王様になったり、故郷に帰ったりと様々だ。
だけどこの世界に現れた勇者様はきちんとアフターケアまで行っている。
万能かよ。
まぁ詳しいことが知りたければリグランド公国に行くといいと言われた。
リグランド公国で魔物や魔獣を狩るのは冒険者達の1つの目標で、かなり需要があるそうだ。
俺もすごく気になる。
だって慣れ親しんだ料理が食べられるんだろ?
勇者は間違いなく俺と同じ世界の人間だ。
シスターが見せてくれた禁書にはカツ丼だけでなく親子丼や天丼、さらには海鮮丼やマグロ丼なんかのレシピもあったから。
しかもご丁寧に、この世界に存在する素材で代替する場合の注釈まで付けてあった。
勇者が完成させてから長い月日が流れているようなので、味は違うかもしれないが、それでも俺にはすごく嬉しい。
泊まっている宿の料理は美味しかったが、俺にはどこか違和感があったのだ。
味が大雑把というか、臭いがきつかったり濃すぎたり逆に薄かったり。
例えば魚の煮付けのような物もあったが、これはどちらかというと味が濃ゆ目のほうが美味しいと俺は感じる。
もちろん個人の好みはあると思うが、おそらく魚に味が染み込んでいない。
逆に、肉にはこれでもかと塩を使っているようで、辛くて仕方がなかった。
もちろん酒のツマミとしてはいいのだが、こんな食事を続けていれば体を壊すだろう。
「冒険中は食事をする暇なんて殆どない、いつ襲われるか分からないからな。
だから冒険者が町から出たら塩漬肉と水だけで済ますやつらが多い。
水は比較的手に入りやすい。
魔術適性があれば生成することもできるからな。
でも食事だけは違う。
塩漬肉は便利だが摂りすぎると体壊しちまうし、寒いところでは温かい食いもんが欲しくなるのは仕方ねぇだろ?
それに食事中ってのは特に狙われることが多いからな。
だから周囲の警戒が得意な斥候役を連れて行くんだが、それよりも専門職のポーター連れて行ったほうが荷物の管理も楽だし、飯もまともなもんが食える。
ポーターはスキルも豊富なやつが多いから、俺達は戦闘に集中できるんだよ。」
とギルマスが教えてくれた。
たしかにそれは効率的だ。
ちなみに魔物や魔獣の肉は食べられないことはないが、ある程度熟成というか時間をおかないと食べられたもんじゃないらしい。
それにせっかく倒した魔物や魔獣も、ポーターがいれば持ち運びが自由。
ポーターがいなければ分担して持って帰るか、討伐部位のみ集めて残りは泣く泣く置いて帰るのだそうだ。
ちなみに討伐したものをギルドに納品すれば、成功報酬の他に買取金額が加算されるらしい。
貴重な素材などの場合、成功報酬の5倍以上になることも珍しくないらしい。
なるほどね。
それは確かにポーターの役割は重要だな。
俺はコローネさんにある提案をする。
「コローネさん、1つお願いがあります。
俺にスキルを教えてください。
例えば本みたいなものでもいいです。
行っても足手まといになるのは避けたいんです。
やるからには手を抜きたくない。
お願いします。」
コローネさんは何か思案したあと、
「うん、君はすごく前向きだね。
いいよ、私の所有するスキルを教えてあげる。
教えるのはいいが、かなりきついぞ?
早々に潰れないでくれよ?
それと教えてはやれるが、覚えるかどうかはキミの資質次第だ。
もしかしたら何も覚えられないかもしれないからね。
じゃあ早速明日からでいいかな?
あぁ、宿は協会が保有している家を使うといいよ。」
何から何までありがたい。
実はお金のことでも悩んでいたんだ。
今俺は金貨が3枚ほどある。
これはギルマスに半ば強引に貸し付けられたものだ。
お金の貸し借りは好きではないので最初は断ったが、未来への投資だと言われて押し切られた。
俺の着ている服では目立つので着替えを買おうと思ったが、先に手を打たれていたし、宿代も支払われていた。
その件についてはすごく雑にしらばっくれていたが、おかげで俺は借りているお金に手を付けていない。
このまま返そうかとも思ったが、それも負けた気がするので、どうせなら倍返しをしてやろう。
それから少し雑談やポーター協会のことを聞き、俺は職員の人にこれから住む家に案内してもらった。
家って言ってたけどこりゃもう屋敷だな。
庭も広いし玄関じゃなくて入り口は小さい門かな?
「これが…家?」
「はい、入り口は一応結界魔法が張ってあります。
ライセンスカードを持っていれば問題ありませんが、それ以外の者が侵入しようとすると、すぐに反応して入り口などが閉鎖され、撃退トラップが発動いたします。
一般人や野盗などでは対処できませんし、熟練冒険者で侵入を試みる愚か者はおりませんのでご安心を。」
そう言うと、案内してくれた女性は小さな笛を吹く。
高音が数回響くと、大型の鳥が空から降りてきた。
「この子の名前はジャイル。
魔獣ではなく魔鳥になります。
コローネ会長が新人であった頃に、この子の親が魔獣に襲われていたところを保護されたそうで、それ以来会長を母親のように慕っております。
現在は獣契士により、契約が会長とジャイルの双方合意のもとに契約が結ばれています。」
「獣契士とか契約について聞いてもいいですか?」
「問題ありません。
獣契士とは、獣や鳥等と意思の疎通が出来る方のことです。
一般的にはやはり獣人族の方に多いですが、稀に人族や魔族にも適正を持つ方はいらっしゃいます。
使役出来るかどうかはその人次第となりますが、自分よりも弱い存在に使役されることはほぼありません。
また、使役できるからと無碍に扱えば、当然反発も起こります。
使役する側とされる側、両者の同意があって契約の成立となります。
これを一方的に行うと重罪となりますのでご注意ください。」
雇用契約書みたいなものか。
雇う側と雇われる側、そこに第三者が入って契約が成立する。
相手は獣だろうが鳥だろうが関係なし。
「もしかして魔物も?」
「魔物の場合は少し異なります。
スライムなどの益物は勝手に連れてきても罪にはなりません。
大きな被害も出ませんし、その場所が気に食わなければ勝手にいなくなります。
ゴブリンやオークなどは町に近付けるだけで処罰の対象となります。
そもそもゴブリン達とは意思疎通が取りにくく、契約ができません。
スライムと違い周囲に攻撃を加えたり、人を襲うこともあります。」
あれ?
そこら辺の違いってなんだろう?
「いまさらなんですけど、魔物と魔獣、魔族の違いってなんですか?」
この世界では当たり前のことだろうが、俺には分からない。
いや、ある程度予想はついているので、どちらかといえば確認だな。
「魔族とは、はるか昔は人族であったと言われております。
人族の中で魔法や魔術に特化した者達が集まり、そこでひたすらに魔力を磨く。
そうしてそれらが発生している魔素の影響を大きく受け、突然変異のように進化した人族が生まれだした。
しかしそこで生まれた者たちは、あまりにも魔法に特化しすぎたため、神格扱いを受ける。
現在いる魔族の方達は、皆さんその方の子孫だとも言われております。」
…ファンタジーだなぁ。
いや、話は興味深い。
俺のいた世界も、元はアダムとイブの二人だけだったと言われているし、現在競馬の世界で入っているサラブレッドも、元をたどればたったの3頭に行き着く。
「魔物とは大気中の魔素の影響を受けすぎた変異種と言われております。
そこに生えている木々も、魔素の影響を受けて魔物に変化すれば『トレント』と呼ばれる魔物になりますし、そこで寝ている猫も、魔素により魔獣となる可能性もあります。
魔物と魔獣に明確な違いは、生物から変異したものかどうかと言われています。
魔物とは大気中の魔素から生み出された、深淵の森から湧いてくる、魔物を生み出す核があるなどの説がありますが、どれも実証はされておりません。
ちなみに最も有力だったのは魔王が生み出している説でしたが、魔王が討伐された今も増えているようなので、この説は否定されております。
魔獣とは一括りの呼び名で、正確には魔犬、魔狼等に分類され、その中にも、もちろんランクがあります。
魔狼でいえば、このあたりに生息するのはランク1のワーウルフ、深淵の森にいるのがランク5のデッドリーウルフ。
ワーウルフが千体いてもデッドリーウルフ一体に敵わないと言われます。
その中でもボスと呼ばれる固有種は特別で、冒険者の方達は魔獣の種族ごとにに固有名を付けているようです。
ちなみにコローネ会長は昔ゴールドランクのパーティーで深淵の森に入った際に、魔虎の固有種を見たそうです。
見た瞬間死を覚悟したと仰っていましたよ。」
聞いたときには寒気がした。
おそらくコローネさんは、自分では否定していたが、かなり強いと思う。
それはおそらく純粋な力と力の勝負ではなく、自分の有利なフィールドに持ち込んだ、熟練の戦い方というか、スナイパーのように好機を待って仕留めるやり方だと思う。
ギルマスも相当だが、闘技場のような限定した場所ならギルマス、大自然のフィールドならコローネさんが、勝つと思う。
その人が見ただけで死を覚悟するなんて相当だな…。
あれ?
もしかして俺はとんでもない人に訓練を頼んだんじゃないか?
これは頼む人を間違えたかもしれない…。
寒波『邪魔するよ〜』
僕『邪魔するなら帰って〜』
寒波『あいよ〜』
こんな感じで帰ってくれないかな
誤字、脱字、表現の問題等ありましたら、ご連絡をお願い致します。




