2「ランナーズ・ワンウェイ」①
パチンコ演出部分
速度を求めるために、人はいろいろなものに手を出してきた。
自転車、自動車、動物。それらに乗り、速度を競った。距離を競った。
速さを求めるために、人はあらゆるものを使い走った。そして動かし、手綱を取り、舵を取り操作した。いつしか専門の人間でしか語られない領域になっていった。
その中でも最も単純にな奴らがいた。専門は専門でも、走ることの専門、それも短距離の。
100メートル、200メートル、400メートル。
構え、火薬の音が破裂し、それを合図に地面を蹴り続け、前へ進む。
一番早いやつが勝つ。決着はほんの数秒で、十数秒で確定する。
彼は子供のころから足が速かった。近所で、村で、街で、学校で、行く先行く先と彼は走る人たちを置いてけぼりにしていった。
かなりの回数のスタートを経験した。誰にも負けない始まり方が彼にはあった。
一度も負けたことがなかった。奇跡のような足、人間。彼はそう呼ばれ、栄光を手にしていた。
しかし、ある大会。
「位置について」
腰を上げる。いつも通りだ。いつもの号砲の後まっすぐに駆け出せばよい。早く、速くと前へ進めばよい。
走ろう。
——地面を蹴り、力強く前へ。
「用意」
腰を上げ、一歩目の蹴りだしの準備。
本当の一瞬、ここで蹴りだす瞬間が早くても遅くても、勝ち負けが決まる。コンマの勝負。
——号砲が、放たれたその瞬間、駆け出した先。
彼の走る人生は、終わった——
彼は足を押さえ蹲った。激痛が走った。歯を食いしばり、痛みに耐えた。脂汗が止まらない。何が起こったかわからない、反射の行動。
担架に乗せられ、運ばれてから先の、彼の姿を見たものは居なかった。
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心臓が高鳴っている。この門の先に、居場所がある。治療の為に半年以上耐えた。リハビリの為にさらに耐えた。走れるようになってからまた更に耐えた。彼には昔以上の力はもうなかった。それは本人が一番よくわかっている。理解しているのだ。
今度は負けるかもしれない。今まで勝ち続けてきたことが奇跡に近いものである以上、神様がいるのであれば彼に与えた怪我は運命か、それとも試練か。それは彼を見ている神に聞かなければわからないが。
彼の復活を待っていた人間が多くいる。力強く走る彼に勇気をもらった人間もいる。
「まってたぞ!」
歓声が聞こえる。彼の全開に期待を込めて。
この時、この瞬間まで、体を休め、体を鍛え直した。彼の表情は笑みが見える。
(やっぱ俺は、走るのが大好きなんだよなぁ)
号砲が放たれ、彼は——
——スタートの遥か先、ほかの競争者を途中に置き去りにてゴールした。
フィクションです。