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異世界パチンコ経営記  作者: 大野英幸(ひでこう)
4/9

1「真夏のエイサー」②

ダベリパート

「おめでとうございます」

 店員さんはそう言う。大当たりに対して、そうお客さんに言いながら箱を渡す。

 青年は褐色の日焼け肌、茶髪の笑顔がまぶしいさわやかな人だ。台の大当たりに対する喜び方も、演出に対する一喜一憂も、店員さんも他のお客さんも楽しそうに見ている。

 箱を床に下ろし、札を入れる。この異世界では特に射幸心を煽るという事はないのだが、このお客さんの出した玉ですという表示程度の意味でしかない。

 青年が打っている台は”真夏のエイサー”演出の通り、真夏の淡い恋物語とその情熱を表している台の名称だ。そして、その演出の中の人間は、今の打ち手の青年ままである。

 

 本人である。本人なのだ。

 ここは異世界のパチンコ屋。気にしてはいけない。


 青年は大当たりのラウンドを消化しているときにふっと悲しそうな眼になる。

「この台なあ、外れるときって彼女と別れるとか、見つからなかったそういうのなんだよなぁ」

 

 その通り、パチンコであるがゆえに、失敗のパターンもなければならない。成功=当たりにしなければなんだこれは。となるし、成功してもそのあとに別の演出につながり、失敗したら外れという話になる。

 この台の場合、基本的な演出構成が、前半が彼女となにかしら喧嘩をして青年から離れる。青年が彼女を探しに出て見つけたら大当たり。という構成となっている。

 青年が探しに出ないパターンが多すぎるのが、この台の評価を落としているようだが、見た目そのままの印象で作られているのである

 

 いくら青年が原因で彼女を怒らせ、出て行ってしまったと言っても、画面の向こうの青年が

「チッ・・・・・・あーめんどくせ・・・・」

 と悪態ついて不貞寝して外れる、というパターンが用意されている。

 

「今の俺じゃないよ? 俺じゃないから」

 そんなものは百も承知である。ありえそうなパターンがあるというだけで、実際の青年が言っているわけではない。口調も、態度も変えられてパチンコとなっている。仕方がないが演出とはそういうものなのだ。これも前向きには悪いやつで、大当たりに向かう時の演出は純粋に、純情に、実は心が綺麗な人間だったと。心をくすぐるであろうという変更がされている。


 目の前にいる青年にとってはたまったものじゃないが。だがお客さんはそういうのはわかっている。青年は青年であって人間である。たまにはそういうことも言うだろうし、弱気になった時の僕という一人称も、機嫌が悪い時のついてしまう悪態も、本物の青年はすぐに気が付いて謝ってくれる。


 演出となったらもう変えられない。当たりに向かうルートは基本的にプレミアム扱いになる。滅多に出てこないのだ。本当の青年と演出の青年に照らし合わせて、この台にすると。


「出てってくれ!」

 と言って彼女が出て行って追いかけて当たりという順を踏むのが、

「出て行ってくれ! いや・・ごめん。言いすぎた」

 と即座に仲直りし、当たることになってしまう。言い方が悪いが時間稼ぎができない台になってしまってお店的にはあまりよろしくはない。

 

「まぁ兄ちゃんの台はまだマシだぜ? 俺のヤツ見てくれた事あっか?」

 四人の勇者の老人が、青年に話しかける。

「俺のヤツなんてあれだ? 少年の嫁のケツ触って文句垂れたり、中年と抱き合ったりするんだぜ? 外れ演出だからいいからとはいってもよぉ・・・」

 それを聞いた青年は吹き出して笑う。

「フッハハ・・・爺さんそれってセクハラとホモ疑惑じゃないですか」

「のぅ! 若い子は好みだが彼氏いるやつのなんて触れねぇし、抱き合ったってありゃあビビりのあいつから抱き着いてきたんだぜ?! 風評被害ってやつだ」

 

 お客さん通しの演出の語り合いが始まる。ああだこうだ、アレは違うこれも違う。これは本当。 

 基本的に格好いい部分は本当。と、お客さんは口をそろえて言っているから眉唾かなとは店員さんは思うが、彼らは演出の中の人なのだ。本当にあったことなのだろう。

 そう思いつつ、老人と青年の楽しそうに会話するのを見て、店員さんも笑顔になった。

フィクションです。

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