1「真夏のエイサー」①
パチンコ演出回
青年は探している。想い人を。
青年は探している。この世でただ一人だけの、思いを動かした相手を。
ネオン輝く夜の都会から、そして街頭一つない山の奥、懐中電灯一つ持ち、あて先はあるかないのか、彼氏自身も最早わかっていないのかもしれない。
「これではストーカーみたいだな」
青年はそう呟く、一瞬諦めたように目を閉じ、俯いた。
——いや、まだ、僕は見つけなければならない。
「まだ探していない場所がある」
どういうことか、急ぎ車に乗り換え、場所を変えた。
青年の眼、表情は懐かしさがある場所についたことを知らせてくれる。
有名どころの観光名所らしい。観光客らしき人が、老夫婦が、親子が、恋人同士が、そこら中にいる。そのなかで一人スポットライトに当たるように、青年だけが孤独なように、想いの人を探している。
観光客たちにぶつかりかける。ひらりと避け、軽く会釈、謝罪する。
そんなことをしながら、青年はついにたどり着いた。始まりの地。
観光名所の寺院のようだ。観光客がさらにごった返している。その中に探し人がいる気配はない。
「すみません。すみません」
青年は人混みをかき分ける。目的地は決まっている。だが人が多すぎる。あの時も一緒だった。
あの時は、彼女と手をつなぎ、はぐれない様にゆっくりと進んだ。それも一つの楽しさとして覚えている。
だが、今の手の先には彼女はいない。
——もう一度。
彼女と一緒に手を繋ぐんだ——
思いのあまり、考えは単純になっていく。あれこれ考えるだけ無駄だと思い始めてきたのだ。
言葉を並べたところで、意志で、行動で、表情で教えてくれと、あんなに彼女が言っていたではないか。今になって、こんなになってようやく理解するだなんて、情けないと青年は人をかき分けながら思う。
「もう、ここ以外に考えられない」
人はまばらになりつつ、青年は石作りの階段へたどり着いた。きっとこの先に、思い出の場所に、青年の想い人は居る。
視線は左へ、右へ、隙間を埋めるように動く。見たものと探し物の照らし合わせをしながら、粋を荒く、軽く走り、人にぶつからないように。
最悪の場合、世界中のどこかにいる。そして、探しに行けばいい。
そんなあやふやな考えで、思いで、探し回り、ようやく思い出した事による確信にて、青年は歩き時には小走りし、もう少ない時間の中探し続ける。思い込みであろうが、そうでなかろうが、信じたい心を裏切らぬよう青年は動く。
たどりついた先は薄暗かった。あの時と同じだ。もはや深夜で暗かったが、雰囲気作りだろうか。明かりを持っている人もいる。それも踏まえて幻想的な風景になっているようだ。人工的なホタルとも。
青年は走った。息切れもしている。もう走れない。それでも走った。息ももう続いていない。
全力で走ったのはいつぶりだろうか? 想い人の為に考え、動いたのは?
体全身で息を整える。俯き、へたりこみ、もう彼は動けない。それでも彼女は見つからない。
——ああ、もう、ダメだ。二度と会えないのだろう。
青年は目を閉じた。熱くなった体と、考えを冷たかった頃に戻すように。彼女と出会う前の自分に戻るような感覚を覚えながら。
目を閉じた暗闇の中、彼に声がかけられた。
「……あの」
聞き覚えがある声だった。とても可愛らしい、それでもしっかりとした声。
泣きそうで、ダメになりそうな自分を励ましてくれた、怒ってくれた、慰めてくれたあの優しい彼女の声が聞こえる。
青年は目を開ける。涙目で薄暗く、前がしっかりと見えない。目の前にいる人間の顔がしっかりと見えない。青年は彼女を探し回り、汚れた手で目を拭う。
彼女であろうがなかろうが、見なければならない。
——目の前にいたのは。
ああ、間違いない。探していた、彼女だった——
「やっぱり、こんなに泥だらけになって」
彼女は青年にハンカチを渡した。そして、手を両手で握った。彼女も青年も。もう離れないように。
次回は客とのダベり