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異世界パチンコ経営記  作者: 大野英幸(ひでこう)
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プロローグ「4人の勇者と終わりの悪」②

店員と客のダベりパート

「おーなるほどね。こういう感じになるのか」

 鬱蒼と髭を生やした老人が椅子に座り、パチンコを打っている。盤面、その周りが激しく白く光り、赤 橙 黄 緑 青 藍 紫と順番にゆっくりとやさしく光る。そして激しく白く光り、先ほどの四人が格好をつけて立ち”大当たり!”と大きな声で言う。


「格好いいですよね。彼ら」

 黒い衣服に身を包んだ人が、老人の後ろに立ち、会話をしている。

 彼は店員さんだ。このパチンコ屋の。本来であればもっとスラックスとカッターシャツとネクタイで働いているらしいが、このお店がこうなってしまってから、彼ら店員さんたちも合わせた服に着替えるようだ。

 居心地がいい場所、がこのパチンコ屋さんの掲げるモットーらしい。


 さてこの店、パチンコ店なわけだが、ほどほどの建物の大きさがわかる以外はよくわからぬ場所にある。店名もよくわからぬ。外に大きな駐車場とともに、店の外壁に大きく店の名前が書いてあるらしいが、草や木や光やなんやらで隠れてしまって誰も見たことはないしわからない。店員さんに聞けば一発でわかるのだろうが、このパチンコ屋に赴く人間たちは特に気にしたことはない。思えばあるのだ。パチンコ屋があると思えば、この店があるのだ。

 

「そらぁそうよ。俺がモデルになってんだよ。格好いいだろう? まあこの頃はもうちょっと若かったけどな」

 先ほど老人は大当たりを引いたのだ。大当たりを引き、ハンドルを握って打ち出した玉が、大当たりの時に開くアタッカーに入れば玉が増えて戻ってくる。一度の大当たりで多くて3000発近く出る台もある。この老人が打っている台は、一度の大当たりで1700発ぐらいだろうか? 打ち方と入り方によって上下はするが、だいたいこれぐらいは出るだろう。

画面にはニヤケ面の長い髭を蓄えた老人の絵格好をつけたりつけなかったりしながら、右から左へとスライドしていく。ちらりと見えた画面の人物紹介には伝説の魔法使いと書かれている。勇者とともに悪を倒したことがあるのだ。いつ伝説とついたかわからないが、伝説には間違いないのだろう。

「お爺さん伝説なんですよね。今度サインくださいよ」

 店員さんは冗談で言う。

「へっへっへ。サインはやってねえんだ。呪術に使われるかもしんねえからな! すまんな!」

 まあ、魔法使いだしなぁ、と。付け加えて、老人は懐かしそうな顔をしたり、悲しそうな顔をしたりする。 

老人の身なりを見ると、質が言い訳でも悪いわけでもない、いうなれば平凡な服を着ている。平凡と言っても、魔法の力が蓄えられたり、その力によってとてつもなく硬くなり、丈夫になり、もう数十年は同じ素材の服を着ていると言っている。

 嘘か本当かはわからない。店員さんからすると、何もないところで火をつけたところで、手品かもしれないと思ってしまうからだ。

 

 老人がパチンコ屋に初めて来たとき、自分が題材のパチンコ台を見つけて、怒りのあまりかわからないが、急に雷が落ちて停電したりしたこともある。



 さて、大当たりが終わった。今老人が打っているパチンコ台は「4人の勇者と終わりの悪」という機種名だ。

 4人の勇者の少年、少女、中年、老人の4人が、世界に散らばる悪を倒して回るというストーリーで、世界に散らばる悪のどれかを見つけるまでが前半のリーチ、悪と対峙して倒すまでが後半のリーチという基本の演出の台だ。

 老人はニヤニヤしながら画面を見て、ハンドルを握り玉を射出している。

 画面には老人があぐらで浮遊しながら少年の後ろをついて行ったり、たまに寝そべったりして画面をにぎやかしている。

「なんじゃぁありゃあ!!」

 老人の声がした。

 ちらり、と老人のほうを見ると、老人もちらり、と店員さんの目を見た。


「いや台の音だわ。さすがに」

 ふふんと笑い、老人は画面を見直す。

 確かにそうだ。パチンコを打っていていきなり、遠くのものに遭遇するような言葉はでない。

 

 今、老人の台は「世界終焉の刻」と名付けられた確率変動の状態だ。スペシャルタイム、つまりST機であり、大当たり後100回転以内に70分の1を引いて当て続ければ続ければよい、という状態だ。これがなかなか続かない。この台で世界を平和にするには20回連続で当てなければならないらしいが、簡単に平和されてたまるかと悪が言っているようだ。


 老人のよこにべったりとくっついている店員さんだが、今更ながら言う事ではないが、この店、とてつもなく暇である。マン・ツー・マンで接客していようが、誰も気にしない。

 そもそもいま現状、この老人以外誰もいない。老人ホーム

「うるさいわ」

 と心の声まで読まれる。ぐらい暇である。

 もちろん他にもお客さんは来る。屈強な大男から、耳が長く尖っている女性、大きな三角帽子をかぶった女の子、獣人等、身分人種問わず、興味があればいらっしゃいませなのだ。

 まあ、興味があっても初めてパチンコ屋に入るのは勇気がいるもんだが。

 


 老人の台が赤く光、唸りを上げ始める。激しく光り、赤色になり騒がしくなる。大当たりになりそうな演出がきたのだ。これで金色の演出が挟まれば、8割は当たってくれるだろうか?

 さてそろそろ当たるか、と店員さんは次の当たりの玉を入れてもらうためにドル箱を取りに行く。


 老人の打っている台の画面が赤いモヤが多い、まばゆく光り、画面の中の老人が言った。


「俺の激熱な炎を食らいな!」


 激しい虹色の光線を、画面の中の老人はとてもいい笑顔で出した。

 虹色の光線は敵、悪に直撃し、爆発四散。これが4,5回爆発音。そして数字がそろった。

「さて、次の悪を倒しにいくぞ」

 画面の老人はそう言って歯が輝く。

「やったぜ!」

「やったわ!」

「やるじゃねぇか!」

 そう、喜びの声が上がると少年と少女と中年が老人を胴上げする。大当たりしてからアタッカーが開くまで、ずっと胴上げし続けている。

 おっほっほっほと笑いながら、老人は店員さんが持ってきた箱を受け取り玉を箱に詰めていく。

 

 楽しそうで何よりだと、店員さんは笑った。

この話はフィクションです。

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