順位
「紗里-、そろそろ起きないと遅刻よ。」
叔母さんの声がするが、まだ眠っていたい。微睡んでいると、叔母さんの悲鳴がして飛び起きた。
原因はすぐに分かった。実体化してベッドで眠っている死神のせいだ。
「あ、すみません。ついうっかり眠ってしまって。すぐに消えます。」
死神は呑気に言った。傷はすっかり治っているようだ。
「いいえ、私こそはしたない声を出してごめんなさいね。貴方が死神さんよね。久々に見たから驚いてしまって…。」
「人間はあまり僕と話さない方が良いですから。失礼致しました。これからも紗里を宜しくお願い致します。」
死神は実体化を解いて消えた。私には見えるけど。外に出ると学校の方に昨日の悪魔がいた。気分のいい眺めではない。
「おはよ!」
「おはよう。またオカルトネタを持ってきたの?」
「そうなんだよ。ここ数年の都市伝説、『屋上の死神』。」
彼かなあ。死神は高い所から周囲を見渡すことが好きで、よくマンションのてっぺんに腰掛けている。最近は自重しているみたいだけど。
「どうせガセネタでしょう。」
翼が割り込んできた。
「実際にその人物を見かけた人は三日以内に必ず死んだみたいだ。一緒にいた友人には見えなかったらしい。きっとマジだよ。」
三日か。そんな短くないはずだけど。でも本当っぽいな。
「それが本当なら実際にいても見えないじゃない。」
「あ…。」
期末テストの結果が返ってきた。私は学年一位だった。私は嬉しくなった。帰宅部で勉強ばかりしているし、近代史に関しては先生より詳しい家庭教師がいる。
「ヤバ、数学が学年でビリだったんだけど。紗里はまた一位だろ。」
「まあね。翔ちゃんももうちょっと勉強しようよ。」
「無理無理。どうせ変わんねえよ。でも追試の範囲は教えてくんね?」
「もう、仕方ないな。」
「そういえば、翼ちゃんはテストどうだったの?」
「二位だった。でも現代文の問三の答えは絶対おかしいよ。」
ちゃんと人間を演じているなあ。
「チッ。」
後ろで舌打ちが聞こえる。私が振り向くと、校則違反の金髪パーマの女子が此方を睨みつけている。
「ぁあ?何見てんだよ。」
「止めてよ、翔ちゃん。もう行こう。」
感じ悪いなあ。変な人。
悪魔が本当に邪魔。死神は黒板の前でずっと浮いているような真似はしなかった。護衛か何か知らないけど、本当に消えて欲しい。
もうすぐ春休みになる。そうしたらこの悪魔ともお別れだ。
「この教室は随分と人外が多いようだな。」
悪魔が徐に言った。急に何を言っているのだろう。私の正体のことは言ってはいけないはずなのに。
「気付いているからな。早く出て行け。」
誰に言っているの?私は困惑した。